小説

□恋ノ花
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熱い日射しが、雲一つない青空を突き抜けて、地上へと照りつけている。強すぎる光は地面の砂に反射して、さらに熱を上げていた。

あまりの暑さにオレはげんなりとしながら、眩しすぎる太陽を見上げて目を細め、空を横切る星蝕みを恨めしく睨みつける。

そして少しでも日の光を遮るように、被っているマントのフードをさらに目深に被り直す。

溜息の代わりに深呼吸を兼ねて吸い込んだ空気は、カラカラに乾いていて、余計に喉が渇きそうだった。


オレ達『凛々の明星』は、見渡す限り黄色い砂ばかりのコゴール砂漠にやってきていた。

進む先には当然道などはなく、ブーツの先でサラサラとした砂を蹴りながら、慎重に歩みを進めていく。

砂漠を歩くのは初めてではないが、やはりこの暑さは堪える。道中の合間に魔物との戦闘もあることだし、なおのこと厳しい。

仲間達も最初のうちこそ元気だったが、戦闘を二回ほどしたところで早くも全員が静かになっている。

オレと同じようにフードを深く被ったリタは完全に閉口してしまっているし、普段涼しい顔をしてるジュディスもいつの間にか口元の笑みが消えていた。

エステルとカロルは歩きながらも少しずつ遅れてきている。

パティはまだ砂の海を楽しむ余裕があるのか、きょろきょろと青い瞳に、静止した波のように連なる黄色い丘を映しこんでいた。

振り返った先で、殿を歩いているフレンは、あの暑そうな鎧のまま真顔で歩いている。今あの鎧に触れたらそれだけで火傷しそうだと、オレは間の抜けたことを思う。

オレの隣を歩くラピードは、今回は砂の熱で足を火傷しないよう、カロルにブーツを犬用に改造してもらって悠々と歩いていた。

オレはといえば、それなりにまだ体力は残っているが、さすがに歩きながら無駄話をする元気はない。

この広い砂漠に点在するサボテンで何度か水分補給はしているが、すでに汗も出ない。おまけに言うまでもなく、暑い。

乾いた埃っぽい風はぬるいばかりで、当然ながらいくら頬を撫でても少しも涼めそうになかった。

それでも、この真昼の強行軍が無茶でないのには訳がある。

前回砂漠に来た時と大きく違うのは、ジュディスに頼めばいつでもバウルを呼び寄せることが出来るという点だ。

この砂漠に来た移動手段もバウルだし、その気になればすぐにでもこの暑さから離脱して涼しい船内に避難出来る。

それが皆よくわかっているせいか、それぞれが我慢して素材の探索を頑張っているようだった。

明るくなければ見つけるのが困難だろうと、昼に探すことになったのだが…オレもさっきから足元に目を凝らしているものの、それらしいものは発見で出来ない。

空の上からバウルで多少目星をつけて降りてきたはずだが、砂に埋もれてしまっているのか、なかなか目当ての素材は見つからないでいた。

ギルドの仕事の依頼で、この地方に多く存在する特有の素材を集める前に、これではこちらが干からびてしまいそうだ。

無理をせずに、そろそろ一度戻るか、休憩した方がいいかもしれない。

そう提案しようとオレが乾いた唇を舐め、湿らせたときだった。

「みんな大丈夫〜?」

緊張感のない呑気な声が何もない砂の海に響く。その声につられて前を見れば、オレの前を歩くレイヴンが立ち止まっていた。

今、仲間たちの中で一番元気なのは間違いなくあのおっさんだ。

その軽快な足取りは砂の上であることを感じさせない。

先頭を歩き率先してオレたちを先導していたレイヴンは、前回同様暑さにはめっぽう強いらしく、ぐったりとしたパーティの中で一人だけ浮いている。

時にこれが寒冷地となると途端に立場が逆転するのだが、…今は言わないでおいてやるのが騎士の情けだ。オレはもう騎士ではないが。

オレはさっきから歩きながら空とレイヴンの背中ばかりを見ていたが、振り返った男の日に焼けた笑顔を目にして苦笑した。

「おっさん、相変わらず暑いのは平気なんだな」

「まぁね。かえって調子がいいんよ…ほらね!」

屈託なく笑うレイヴンは、無駄に一度だけ身軽に宙返りをしてみせる。それを見たリタが本気で呆れていた。

「なんであのおっさんあんなに元気なのよ…魔導器の影響…?反則だわ」

「そろそろ、きつくなってきたわね」

「ジュディ姐大丈夫かの?」

「ええ、まだ大丈夫だけれど」

レイヴンの言葉に、みんなが立ち止まって仲間の様子を確認する。

「暑い…もう無理だよ…」

「た、確かに暑すぎです」

カロルとエステルが少し音を上げた所でオレも立ち止まる。いい加減、オレもこの暑さと変わり映えのしない景色に飽きてきたところだ。

「少し休憩するか」

「そうだねユーリ。無理は良くないし」

フレンが頷いたところで、カロルも手を上げていた。

「さ、賛成!ちょっと休もう!」

「ほら、こっちこっち」

砂漠の中でも、小高い砂の丘の斜面や、風で抉れた部分は多少日が陰っている。暑さは変わらないが、直射日光を浴び続けるよりは幾分かマシだ。

レイヴンの手招きに応じたみんながそこに座って、水を飲んだりして休憩し始めた。


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