会話集

会話集
屍鬼、敏夫、静信、夏野
その他いろいろ
短めの会話のみ
ギャグ要素あり
主人公として名前変換ナシの夢ヒロインも出ます
扱いの酷い人多数
さらっと読めるものを書きます
◆ヒロインと辰巳さん 




「よく気が付く人なんですよ、若御院っていうのは」


怠そうにその人はそう言って一つ息を吐いていた。


「人よりも敏感に気が付いてしまう。
それで人より、背負うものも多かったのだろうと思います」


悲しそうに言うその姿にはありありと愛情が浮かんでいた。


「人は悪意には無自覚なものじゃないですか。
無自覚に人を傷付けたりしてるじゃないですか。
…そんな、ものなんですよ。
みんな、そんなものなんです。
でも…若御院は人よりも無自覚ではいられなかったんです。気がつくことが多かった。
気付かなければきっとよかったのに。
楽に生きられたと、そう、思うのに」


目を伏せてそう口にする。
遣る瀬無い思いが交錯する。

言葉は空気を小さく震わせて、虚しく消えていく。

この言葉はもう二度と彼には届かない。


「でもね、彼にも無自覚なところがあったと思うんですよ。
いえ…
…気が付いていたとは思います。
うっすらとそう気が付いていたとは思います。
でも、本質を理解しなければやっぱりそれは分かっていないということと同じですから…
若御院は自らのことについて分かっていないところがあったと思います。
若御院は人よりは無自覚ではなかったけれど、でもやっぱり人に過ぎないんです。
無自覚に何かを抱えておかしくない。
…おかしく、ないんですよ」


まるで自らに言い聞かせるかのような言葉だった。
彼を奪ったのは何だったのだろうか。


沙子か、あるいは。


「それで、あなたはどうするんですか」


そう言葉を洩らせば、伏せがちだった顔をゆっくりと上げる。
黒が優ったようなその瞳は強い色を放っていた。


「…若御院を返してください。
この村になくてはならない人なんです。
彼を奪わせるなんて、そんなこと…」


「いや…
彼が必要なのはあなた自身でしょう。
村はたとえ彼がいなくなったところで機能していく。
でもあなたはそうもいかないんだ。
……彼はあなたの元にはもう戻れない」


その人は唇を噛み締めていた。
表すのはただ深い愛情だったのだと思う。


「……っ…
わ…若御院に、会わせて…私に……」


「……屋敷に来てくださればいくらでも」


そう言って辰巳は笑う。
それがどういう意味を持つのか分からない彼女ではないだろう。


それでも彼女は少しの時間のあと、首を縦に振るのだと何となく分かっていた。



それ以外に彼女にできることなどなかったからだ。

2012/08/06(Mon) 03:38 

◆呪い・続き・辰巳 




「なら、バイクは押していくから、どこか食べに行こうか」


「どうして辰巳なんかと」


「たまにはいいじゃないか。
もちろん君の奢りで」


「本当辰巳って何なの」


何をしている人なのか。
私にこんな風に集るようにするなどとおかしいとは思うが、辰巳が何者なのかどうだってよかった。


出会いこそ酷いものだったけれど、それはもういい。


「どこ行こっか」


私はそんな風に行って辰巳を見上げれば辰巳も笑い返してくる。

それが嬉しかった。

この世界に繋がるためには辰巳しかいない。


辰巳に縋るしかない。
辰巳は否定しない。
そのままでいいと言ってくれると思った。


今再度はっきりと救われているのだと感じていた。

2012/08/01(Wed) 22:25 

◆呪い・続き・辰巳 




「辰巳に会わなかったら記憶も戻らなかったかも…」


私は苦笑を零しながらそう口にする。


「でも思い出せてよかったんだろう?」


「そうね。それは間違いない」


この体質を受け入れることができた。
少なくともどうして私一人が、という悩みはなくなった。
諦められそうだとも思った。
私はこの世界に受け入れられていない。

それが苦しいほどによく分かった。


「無理矢理思い出させなくてもよかったとは思うけどね」


「あのとき君が浮かない顔をしていたからだよ。
そのままにできなかった」


早く諦めてしまえ、とこの人に言われているようだった。

でも前よりは楽になった。
呪いには理由が必要だ。
そう思ったから。

それに辰巳や沙子や他の人が幸せに生きているのならそれでいいとも思った。


幸せなんて個人の定義でいくらでも変容してしまうものだろうけれど。
私の尺度ではきっと測れないのだろう。


「なぁ、これからどこか行かないかい?
僕のバイクに乗って」


「いいわ。二人乗りなんて危ないし。私はまだ死にたくない」


「僕には効かないだろう」


「わかってるよ。
でも、呪いは私を呪うためにあるんだから、私自身にも効果があるのよ」


それで何度自分自身で死にかけたか分からないくらいだった。
それに辰巳に及ぼす影響もきっとゼロではないと思う。
辰巳はきっと何かで相殺しているだけなのだ。

悪運か、何か。
それに興味がないとは言わないけれど、恐怖すら感じる。

私の呪いを跳ね返せるほどなのだから。


でもきっと私は辰巳をも傷付けてしまう。

心中に辰巳を選ばない。
そんなことしていいはずがなかった。

辰巳にはずっと沙子を見守っていてほしい。

2012/08/01(Wed) 22:18 

◆ここで説明 




パロっぽいお話。
暗いです。

ヒロインは元人狼。
生まれ変わり。

高校一年生。

特異体質。
傍にいる人を傷付ける。
怪我をさせる。

今ではほとんど人と関わらない。
辰巳にだけは効果が弱く、効かない。
だから辰巳に半分依存しているが、兄妹のような関係。


だが、流れによってはいくらでも関係は変われる。
そんな関係。

辰巳さんに関しては謎だらけ。
ヒロインも早々首を突っ込まずに変だな、と思っている程度。
ニートかとか思ってる。

辰巳さんと沙子は繋がっている。
ヒロインは辰巳さんのせいで記憶が戻っているが、ヒロインは記憶が戻ったことに感謝している。

この呪いに明確な理由があるなら諦めるしかないから。

突発的なネタです。
ごめんなさい(´・ω・`)

2012/08/01(Wed) 15:44 

◆呪い・続き・辰巳 




それならば私はきっとこの人に一生依存しながら生きていくのだろうか。

それはそれで耐えられそうもない。


「今日も誰かを傷付けたのか?」


私はただ一度頷いていた。
それだけだった。

よくあることなのだ。
辰巳もそれもよく分かっている。

でもどうしようもなくなったときに辰巳はよく私の前に現れる、そんな気さえした。
今も本当な叫び出してしまいたいくらいだった。


辰巳がいるからまだ私は耐えられている。
そんな気がして嫌だった。


「別に誰かが死んだというわけじゃないんだろう?」


「でも、もし指程度の怪我じゃなかったら…」


どれだけ失血させれば人が死ぬのか私はそのことをよく知っていた。


「怖い…きっといつか私は人を死なせる気がする」


「……大丈夫だ」


「それに今日あったことはそれだけじゃないからね」


結城夏野が現れた。
同じ学校であることは分かっていた。
でも気付くのが遅すぎたのだ。

まさかこんなところで彼に会ってしまうなんて思いしなかったが、それでもあり得る話だったのだ。
そしてあの学校に集められたのはそれだけではなかった。

運命の糸が複雑に絡み合っているせいなのか、それは手繰り寄せられていた。


「どうした」


「これからも増えてく気がする。
みんなに会う。
忘れてもいいはずなのに、私のせいで危険に晒す。
これは呪いなんだよ」


私が裁かれているのか、それとも他者を裁くためなのか。
それすら分からなかった。


でも彼には何の罪もないだろう。

やっぱりこれは私のものなのだと感じた。

2012/08/01(Wed) 15:36 

◆呪い・続き・辰巳 




「本当辰巳って普段何してるの?
ニート?フリーター?学生、じゃないよね…」


度々私の前にふらりと現れるが謎が多かった。
ただひたすら胡散臭さの塊だったが、仕事をしているようには見えなかった。


「………まぁそれより今から釣りでも行かないかい?」


「その流れでなんでそれなのか意味が分からないんだけど」


暇人なんだろうな、とそんな風に思ったが、釣りなんていうぼうっとした時間を過ごしたがるなんて、どうして辰巳にはこんなにも似合わないんだろう。


「沙ちゃんは元気?」


「沙ちゃんって…」


「今はこんな風に言われても怒らないからね。
年相応だし、まぁ子ども扱いは今でも嫌みたいだけど」


「僕に聞かずに会いに行けばいいじゃないか。
沙子も君に会いたがっている」


「無理よ。
私があんな貧弱な子にあったらきっと殺してしまうわ」


この呪いで、きっと傷付け殺してしまう。

それが怖くて堪らなかった。


「沙子にはもう二度と会わない」


それでいい。
辰巳にたまにでも近況を聞けるならそれでよかった。


「悲しむだろうな、沙子」


「……それにね、こんな呪いの体質も知られたくないの。
あの子は優しい子になったよね。
あの頃とは大違い。
酷かった。
歪まなければあの子はそうやって育ったんだろうなって思ったわ。
世間ズレしてるとこは相変わらずあるみたいだけど憎めないよね、沙子のことは。
……同情もされたくない。
それに、恐れられるのも嫌だからね。
あの頃の記憶があの子の中で復活するのも嫌なのよ。
幸せになってほしい。
辰巳、お願いよ」


辰巳は特に何か考えている風でもなく、ただ分かったよ、とそう返しただけだった。

2012/08/01(Wed) 14:20 

◆呪い・続き・辰巳 




「辰巳がいてよかった」


そう言って深く息を吐いていた。

情けない。
情けない。
人に近付かなければいいだけなのに、そうもいかない。

それにきっと寂しい。
寂しくてたまらない。

今日は本当に怖かった。
彼にもきっと知られてしまっただろう。


それでいい。
無闇に人を傷付けなくて済むだろうから。


「辰巳」


「やっと僕に惚れたかい?」


私は呆れた様に息を吐いたが、その後苦笑してしまう。
辰巳は何も変わらないな、と思うとそれが嬉しかった。
拒否もしない、否定もしない、恐れもしない。


でもそれはきっとこの呪いは辰巳にだけは作用しないからだ。
そう思った。

辰巳にだけは私の呪いには振り回されない。

だから触れても大丈夫だった。

完璧に大丈夫だと言える自信はなかったのだが、それでも概ね大丈夫なのだと分かっていた。
私が近付けるのは生涯この人だけなのかもしれない。

それでも誰かがいて、こんな風に対等に話せるのが思う以上に大切なことだった。


「ありがとう、辰巳」


「今日は素直じゃないか」


「うん。ありがとう。辰巳がいてよかった」


この強運が何のためにあるのか考えたくもなかったが、それは私にとっては救いに近かった。

やっぱり辰巳がいてよかった。


私に傷付けられたりはしないから。

飄々として掴みどころは相変わらずなかったけれど、それでもよかった。

2012/08/01(Wed) 14:09 

◆呪い・続き。辰巳 




「やぁ、浮かない顔だ」


そう声を掛けられて伏せていた顔を上げればどうしてか腹立たしい顔が目の前にあった。

偉そうに仁王立ちをして、腕を組み、口元は愉悦のためか歪む。


思わず舌を打ちそうになる。


「何の様なの、辰巳」


そう冷たい声を出しながら、心の何処かでは彼に会えたことでほっと息を吐いていたのだと思う。

そのことはきっと辰巳にも知られていた。
そんな風にすら思うから。

やっぱり私は彼の存在には安心感すら覚えている。


「やぁ、冷たいな、相変わらず。
運命に引き寄せられただけじゃないかい」


胡散臭い笑みを浮かべて躊躇することなく私に向かってくる。
辰巳は私の体質についてよく知っている。


「辰巳がそんなこと言うなんでお仕舞いだと思う。
似合わないし…
嬉しくもないよ、辰巳」


安心感はあっても嬉しかったわけではなかった。


辰巳が私の隣に並んでいた。

私は思わず辰巳に触れていた。
辰巳は何も言わない。

私は無意識に深く深く息を吐いていた。


「……辰巳がいてよかった」


そんな言葉が勝手に洩れてしまうほどには私は疲れていたのだと思う。

2012/07/31(Tue) 17:37 

◆呪い・3 




まだじわりと血が溢れてくる。
そっとガーゼで拭って消毒をする。

真新しいガーゼを押し当てて包帯を巻こうとする。
それで締め付けてしまえば血は完全に止まる。

大丈夫だ、とそう自分に言い聞かせた。


しかし、そのとき途端に赤い液体がぽたりと机に落ちた。


「…っ…」


私は即座に動揺していた。
ただ血が止まっていなかっただけだと思った。
本当にそれだけだと思った。


それなのに血が次々と溢れてきた。
溢れて溢れてガーゼを真っ赤に濡らしてしまっていた。
みるみる内に血がガーゼの布を滴るほどになってしまっていた。
それが染みになって机の上を汚す。


「ゆ、結城先輩、大丈夫ですか…?」


震えそうになる声で彼の顔を見上げる。
顔面蒼白だったと思う。
彼の方も驚いたようにしている。


「血が止まってなかったみたいだな。悪い。あんた血、苦手なんだろ。
悪かったな、気付かなくて」


気遣うように手から彼の指がするりと離れる。
まだ血が溢れてざぁっと背筋が冷えていく。


「あ、あの…わ、わたし…!
せ、先生呼んできますね!」


私の手のひらは彼の血で赤く染まっていた。
それを見ると震え出しそうになった。

彼の、血。


彼の指からはまだ血が滴る。


私が触れたからだ、と嫌な実感があった。

きっとそうだと思った。
だから血が溢れてきた。


これは呪いなのだと感じた。
怖くて堪らない。

単に血が怖いのではなかった。
やっぱり私は彼に近付いてはならなかったのだ。
そう確かに感じていたのに、こんな風に触れてしまって。

そしてやはりこんなことになった。

血が止まらなくなった。


その傷口を見て血の気が更に引いていた。
怖くて怖くてこのまま血は止まらないのではないかと思うと目頭が熱を持ち始めていた。

どうしてこんなにも動揺してしまうのか。


私には人を傷付けてしまう力があるからだった。

だから体育もよくさぼる。
分かっていたのに。
このときばかりは大丈夫なのではないかと勝手に思った。

彼の今の怪我は私に関わってできた傷ではないと感じた。
それならば触れるくらいは大丈夫だと思ったのだった。

でも駄目だったのだとはっきり分かった。
途端に体の機能が働けなくなるのだと分かった。


彼に近付いてはならない。
きっと色濃く影響してしまう。
そしてきっと傷付けてしまう。

確かにそれが分かって、恐ろしくなった。


この身に未だ深く深く残る呪いの執念を強く強く感じていた。

この運命からは逃げられるはずもない。

これがある限り私は普通の人間ではいられない。

たとえこの世界が偽りの平和に彩られていたとしても、私はその世界からは隔絶されている。

ひたすらに偽物だった。
吐き気がするほどに。


そう思うとたまらなく苦しくて悲しくて、どうして良いのかがわからなくなった。

2012/07/31(Tue) 17:26 

◆呪い・2 




私は血の匂いのせいか気分が悪くなっていた。
口元に手を当てて何とか匂いを誤魔化す。


「あの…先生、呼んできましょうか」


彼は包帯を勝手に棚から漁ったりして、自分で手当をするための用意をし始める。


私は彼をよく知っていた。
できれば会いたくなかった。
何もないままこの学校を卒業したかったのに。

関わりなどもってしまう前に。


反して彼は私を知っているというわけではない。

それでよかった。
知っているということは私にとって特別な意味だ。

ただ見知っているという意味ではなかったから。
それだけの意味ならばどれほどよかっただろうかと実感した。


「別にいい」


垣間見えるところから、判断すると手を怪我したらしかった。
血はもうほとんど止まっているらしい。
それでも血の赤が目に入ってしまう。

手を怪我したのならば手当はしにくいだろうと、私は仕方なく彼の傍に寄った。


赤々としたものが見えるだけでどうしてか気持ち悪くなった。

でもどこか懐かしくさせられる。

何よりもそう感じるのが嫌だった。


本当ならば他人の血など気持ち悪いだけのもののはずなのに。


「結城先輩、お手伝いしましょうか?」


そう名前を呼べば彼は少し驚いたようにして私を見上げる。


「…いや……」


「でも、やりにくそうなので…手伝います。
それで、指を怪我したんですか?」


「あ、ああ、家庭科だったんだ」


「そう、だったんですね」


私は小さく頷いていた。
家庭科の調理実習で包丁などを使っていて指を切ったのだろうか。


それはどうだってよかった。
血が止まったのならそれでいい。

でも自分などが触れてもいいのだろうか、と思いながらも手を延ばして彼の手に遠慮がちに触れた。

2012/07/31(Tue) 17:25 

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