Toshio's ROOM

□deep down
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この人を愛おしいと思ったのはいつからだろう。


もうほとんど初めから、
初めて男女の関係になったときからもうほとんど自分は先生に惹かれていたのではないかと思う。


初めはほんの出来心で。

でもその瞳で見つめられれば痺れるような心地がしてしまう。


今この時もそうだった。


1ヶ月に数回誘う。
誘えば来てくれることも多くて、食事を出しても美味しいともなんとも言わずに、お酒もそこそこに、ベッドに縺れ込む。

きっと大奥さんの晩御飯を食べてきているんだろう。
聞いてみたことはないけれど、たぶん大奥さんはきちんとした人だと思うから、先生の食事もきっと手の込んだものをしっかり三食作っている気がする。

それでも自分の家へ来て私が何かを作って出せば必ず文句も言わずに食べてくれる。

美味しいと言われたことはないけれど別にそれは構わない。

大奥さんには何と言ってここへ来ているのだろう、と思いはするがそれも聞いてみたことはない。

興味がないと言えばない。
男だからどこで何をしていようと何も言われないのかもしれない。

男尊女卑が罷り通る村だと思う。

日本自体がそうだが、この村はそれも顕著だと思う。
別にこれと言って文句があるわけでもないけれど。

別に大奥さんは気にもしていないのかもしれないし、それがどうだか本当のところは分からないが、別にこうして先生がちゃんと自分に会いに来てくれるのだから、全く文句はない。


例えこの先こういう関係が問題になったとしても、自分はこの村とは元々が関係がない。


村から出て仕舞えば良い。

そう思っているのだから、結局私は。




今はこの人と快楽に溺れたいだけだ。
ただ、単純にそう思っている。


ベッドに入って、始めにキスをされる。

順序はほとんど守られる。キスを抜かされることはない。

そのことに慣れつつあり、好きな人とキスができるのが嬉しいと思う。

愛されているのではないかと勘違いしそうになる。

そして別に今はまだ勘違いしていていいと思っている。
いずれ夢からは覚めるのだから。それほど自分は子どもではない。


舌を絡められて歯列をなぞられて、吸われて甘噛みされて、ゾクリゾクリと体の芯から熱くなって、自分の中がじんわりと濡れていくのが分かる。

どれだけ慣れてしまっても、行為自体は飽きなくてむしろいつまでも何度でもこうしたい、と思う。

期待するだけでもう濡れてしまう。

これだけで気持ちがバレてしまうのでは、と冷や冷やする思いがする。

そんな不安もキスをされて器用な指で服を脱がされて体を撫でられるだけで全部が吹き飛んでしまう。


この人のキスも指の動きも丁寧で繊細で、それだけで甘い溜息が漏れてしまう。

こんなに感じやすかっただろうか、と思う。
先生もそのことには気がついているようで、キスをして触れられるだけで快楽に溺れる自分に小さく笑う。



元々勘違いしていた。失礼な勘違いを。

女っ気のない人だ、と勝手にそう思っていた。

そういう勘違いでまさか自分が相手に呑まれることはないだろうと先生をどこか無意識に見下していたのか下手に見てしまったのか、あろうことか自分から先生を誘ってしまったのだ。

馬鹿にしていたわけではなかった。もちろん先生自体に興味はあった。

でも夢中になるなんて思っていなかった。


もちろん今更後悔しているわけではないが、初めてベッドに入った瞬間から手慣れていることにはすぐに気が付いた。

キスの仕方から、自分への触れ方から、何から何まで手慣れていた。

女っ気がないのではない。
考えれば分かるが、医者なのだから昔からモテて当たり前なのだ。それを自分はどうしてか勘違いをして。

ベッドに入ってすぐに、少し拙いなと思うほどにこの人は。

そのときは先生の方が酔っていたと思っていたが、それでもほろ酔いの自分が簡単に沈められてしまうくらいに上手かった。

そこから先生は変わっていないと思うが、自分の気持ちが大きく変わってしまったからか、以前にも増して気持ちが良いと思う。

もうどこを触れられても敏感になるのは自分の気持ち所以でどうしようもない。

気付かれてしまうのではないか。

そんな不安も一瞬で消える。


「……あいかわらず、先生、上手ですよねぇ…」


「それにしてはまだ余裕があるようだが」


そんな風に苦笑を溢される。
その瞳で自分をじっと見つめられる。

綺麗で厭らしくて、黒々揺らめく瞳を見るだけでゾクゾクと背筋が泡立つ。

自分の方ももう問題だな、と思った。

もう何度もしていれば飽きてもいいはずなのに。

何度してもまたしたい、と思う。

離れていく瞬間から、そう思っているからもう末期だ。
そして引き返せはしないのだ。


墜ちるところまで堕ちてしまいたい。

後悔なんてできなくなるくらいに。

自分から先生に抱き付く。

それも合図で、先生はよく分かっている。

もう指や舌だけで満足できなくなっている。

最後まで、して欲しい。

そういう意味で、先生に抱き付いてその背中を愛おしげに撫でる。

待てをされるかのように、頬にキスをされて、朱音はそのまま体を少し起こしてじっとしている。

先生は手早くゴムを付ける。

それすら切ない気がする。

自分はこの人をどうしてしまいたいのだろう。

切なさで一杯になり目を閉じる。





「朱音」


「は、い……先生…」


好き、と心の中で呟く。
そのまま覆い被さられて下半身を先生のもので貫かれる。そして何度も揺さぶられる。

ゆっくり、そして激しく。

目を閉じていても先生の息遣いとその熱と感触を感じられる。
きつく抱き付いて、先生に与えられる快楽になんとか耐える。

合間に漏れる先生の声を聞くだけで愛おしさが溢れ出す。


何度絶頂を迎えたか分からなくて。


先生も抱き付いてきて、そのまま揺さぶって、そうしてすぐに先生も自分の中で欲を吐き出すのが分かる。
何度も中で波打って、どくどくと溢れるように。
でもそれはゴムに塞がれている。

まだ抜かれたくはなくて先生に強く抱き付いたままでいた。

先生もそのまま何度かゆっくりと腰を揺さぶったあと自分の中でじっとして、お互いに抱き合ったままでいる。
先生の荒い呼吸と速くなっている脈が触れる体から伝わってくる。

愛おしさで狂おしいほどにこの人が好きだ、と思うと止まらなくなる。

そのまま先生を抱き締めて、その背中を撫でた。
そうすると頭を撫で返されて瞳が潤む。

自分のものにはならない。この人は。

そのまま暫くすれば離れるしかなくて、朱音はゆっくりと手を緩めて先生を離す。

先生も自分から離れて、そのまま抜き去った。

切ない瞬間だった。

自分にはもう何も残らないのではないか、と思う。

その熱も暫くすれば冷えていく。

そっと手を伸ばしてその頬に触れれば、慰められるように額にキスをされる。

先生に慰める意図はないと思う。けれど自分にはそれに相違ないと感じる。

それでもそれが嬉しくて、朱音はそのまま目を瞑って静かに涙を溢す。


後処理をすれば、先生はその後眠ってしまう。

朱音は隣でその顔を眺める。


もうどうやって忘れるのか、自分では方法が分からない。

分からなくて、今だけでも、と先生に身を寄せて目を瞑って気がつかれないようにまた涙を一つ溢した。


暖かい体。
優しく抱かれる度忘れられない怖さが胸に刻まれる。


それでもこの人をもう後戻りできないほどに愛してしまったから。


朱音は先生の体に触れて寄り添ってそのまま微睡に落ちていく。

今だけは普通の恋人みたいに。隣にいたい。
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