Toshio's ROOM

□docter and monk
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医者と僧侶。




どういう風な関係なのかはっきりとは分からないが、2人は仲が良いようだった。

外の喫煙スペースで先生と若御院が話し込んでいる。


朱音は2人がいる場所にゆっくり近づいて、お茶を差し出す。
大した会話はしていないようで、朱音はそのまま頭を下げてその場を離れようとする。
先生は悪いな、と言って、若御院は丁寧にありがとうございます、と言ってくれる。

見た目や性格は全然違うようだが、不思議と仲がいいようだった。













白衣を着た男と法衣に身を包んだ男が2人でいることの違和感が未だにどうしても拭えない。


「お2人って仲が良いんですね」


朱音は医院の方に戻って、遠くで話し込んでいる2人を見ていた。

偶に尾崎医院に訪れる若御院と先生はああして話し込むことがある。


やすよさんは2人に詳しいようだったので、朱音は話し掛けてみる。
やすよさんもそちらの方をちらと見て、小さく笑った。


「まぁ、幼馴染みだしね。
村でも寺と医者の子どもって言ったら共通点も多いだろうから」


「へぇ、幼馴染みなんですか。
なんか、見た目からするとあんまり接点がないように思いますけど、
でも、そうなんですね」


きっと2人を繋ぐのは住職と医師という立場なのだろう。
幼馴染みであるということはもちろんなのだろうけど。

余所者である自分にはきっと村の全てを理解するのは難しい。

それでも考えれば簡単に分かることもある。

宗教と医療はこの村の要だ。

その渦中の人間に当たり前にあるような自由はなかったのではないか。


医者として憎まれ口を叩くようなことはしていても、しっかり医師としての仕事をする先生を見ていると、医者になるべくしてなった人なのだと勝手にそう思っていた。

そうではないこともあるのかもしれない。


そもそも医者になりたいと思ってもそう簡単になれる職業ではない。


なりたいと思えないのになるための努力をするのは、もしかしたらものすごく辛いことなのかもしれない。


「やすよさんって、ここ長いんでしたよね」


「そうねぇ、20代の頃からこの病院にはいるから。
若先生が悪餓鬼だったころから知ってるわね」


「悪餓鬼だったんですか、先生」


「なんとなく見てれば分かるでしょう?
あれが子供になった感じ。そのまんまよ。
まぁ大人になってだいぶん丸くはなったけどねぇ」


やすよさんはそう言っておかしそうに笑っている。
想像したら確かにおかしくて笑ってしまった。

生意気だけれど、きっと純粋でかわいい子どもだったんだろう。
見てみたかった、とそう心から思った。


「先代ってどんな感じだったんですか」


「…ああ。
なんていうか、まぁ、
私は若先生の方が断然良いけど、他のここで働いてる人たちも多分そうだったと思うけど、
でもね、患者なんかは、先代を慕っている人も多かったわね、
昔のとりあえず威厳のある医者、って感じだったから。
そういうのが好きな人もいるのよ、こんな村だから」


「先生は全然そんなことはないですもんね、誰にでも気安いし、何聞いても一応はちゃんと答えてくれるし、まぁ余計なこと言ってることもありますけど、
でもどっちかっていうと親しみやすい先生って感じで、
……不思議なもんですね、なんだか」


患者なんかは、確かに若い医者より歳を取っている医者を好む人が確かにいる。

経験値としては歳をある程度取っている方が確かに上なんだろうが、医学は日々進歩している。
若い医者が絶対的に駄目なわけではない。

先代のことは詳しくは知らないが、今の先生は仕事の面ではきちんとしているし、頼りになる。
看護師としてはああいう医者がいると働きやすい。

独りよがりにはならないし、きちんと他人の意見も聞く。

経験だけではものを考えない。
そこはとても好ましいもののように思う。


「反面教師なんだと思うのよ。
昔は反発してたからね、ものすごく。
まぁ、私たちには分からないことがあるんでしょうけどね。
尾崎と室井の家は村の中でも特別だから」


「そうなんですね、
余所者の私にもなんとなく分かります、そういうところ」


若御院が立ち上がって去っていく。
先生も煙草を消すような仕草をして、ゆっくり戻ってくる。

そちらばかりを見ていたから、振り返った先生と目が合っているようで、そのまま視線を逸らせない。


先程持っていった茶器をとりあけず先生から受け取ろうと朱音はそのまま近付いた。


「悪いな、ありがとう」


「いえ、全然」


「どうしたんだ」


自分はきっと何か気に掛かって複雑な顔をしていたのだろうか。
だからか先生は不思議そうにこちらを見てそう声を掛けたのだ。


「え、いえ、若御院、もの腰柔らかい人だなぁと思って」
  

「そうか?」


「ま、まぁ、法衣だからそんな風に見えるだけですかね。
先生ともなんだか全然違うし」


誤魔化すようにそれだけを言う。


「医者と坊主だから、まぁそうだろうな」


「そういえば若御院なら結婚していらっしゃらないわよ」


やすよさんが思い付いたようにそんなことを言う。
先生は微かに顔を顰めている。


「まぁ、そうだな」


「えっ、そうなんですか」


別段気になることでもなかったのに、そんな風に言われて仕舞えば、意外に思って反応してしまう。

結婚していないとなると厄介なんだろうな、きっと。


代々寺としてずっと続いている。
後継となるときっとややこしいことになるだろう。

外の人間でもそこは容易に分かる。


でもそれは先生も同じだと思う。
後継としての男の子が生まれないといろいろ言われたりするだろう。

きっと鬱陶しいことも多いのだろう。


「なんか、大変なんでしょうね、色々と」


「まぁ、住職の嫁は大変だと思うわよ〜」


やすよさんがそう言ってこの会話は締め括られる。

医者の嫁も大変なんだろうな、と朱音は漠然とそう思いながらも、そんなことは口が裂けても言えない。

それはやすよさんも同じようで、ここの人たちはあまりそういう話題を表には出さないようにしているらしい。

余所者の自分がいるときには特にそうなんだろうと思う。
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