Toshio's ROOM

□his home
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「お袋は出掛けていて今日は帰って来ない」


仕事終わり、偶然2人になったときに朱音は敏夫にそんな風に唐突に言われて、思考が一時停止する。

そしてすとんと胸に落ちて理解する。


意味が分かった。先生の言わんとしていることが。
嬉しい申し出だ。が、しかし。

朱音は逡巡するようにして、動きも一時停止する。


もちろん行ってはみたい。
先生が住んでいるところには興味がある。
1日中一緒にいられるかもしれない。

でも。


「…奥さんが、もしかして」



「それは、ない。用がなければ自分から来ることはほぼないし、
俺が呼び出して来させたこともないから、ない」


ほぼない、と言う言葉を信じていいのかどうか。


「…ほんっとうに、悪い人ですよねぇ…」



朱音は頭痛がするかのように、こめかみを押さえる。
でも自分の出す答えは分かっていた。



「………………………分かりました。行きます」



悩んだ風にしていても、結局はそう答えてしまっていた。



「君も悪い女じゃないか」



「言い訳は、しません。
そもそも最初に誘ったのは私ですし」



この関係を1番最初に始めたのは自分だ。
あのとき誘ってしまってから、ここまで続いてしまった。

ここまで続くなんて思わなかった。


そして後戻り出来なくなって泥沼に嵌っていくのが分かっているのに。

そうやって理性が働く瞬間があっても、それは脆くも崩れ去る。


もうずっとその繰り返しだったから、もう嫌というほどに分かっていた。











尾崎の家に入ってリビングのソファに座らされれば、居心地が悪く感じられる。
罪悪感に苛まれる。


やっぱり辞めておけばよかっただろうか。


でも、不思議なほどに女性の気配を感じさせない。


母親の手は入ってはいるだろうから綺麗に片付いているような感じはするが、奥さんの影がほとんど感じられない。


不思議なほどにそう思った。


朱音はちらと敏夫を見るが、流石にそう言うところにまで気が使えそうには思えない。


自分が来るまでに隠したとかそう言う感じはなさそうに思う。



どう言う夫婦なんだろう、と思ってしまう。



おかしな家だ。


でも本当にほとんど帰って来ていないのだろう。



尾崎の家、というのはどういうものなのだろう。


村の人間じゃないから村のこともそれ以外のことも詳しくは分からない。


尾崎というのがどういうものであるのかも。


重圧があるから奥さんは帰って来られないのだろうか。

きっと結婚をしたのだから添い遂げるつもりだったはずだ。

初めは、きっと。


ソファの隣に先生が座ってきて、するりと腰に手を回されて引き寄せられる。

結局こうされて仕舞えば、罪悪感も何もかも消し飛ばされる。

先生は自宅でこんなことをしていても悪びれる様子すらない。


尾崎の家については詳しくは分からないが、この人は尾崎の権力そのものだからなのだろうか。

だからこうすることになんの躊躇も無いのだろうか。




自分が始めたことなのだから自分には文句を言う筋合いすらないのもわかる。


そして文句を言いたいのではないことも本当は分かっている。


好きだと言ってみたい、自分のものにしてみたい、そんな子供染みた独占欲だけ。


テレビがついていて、騒付きが部屋に響くようだ。
カーテンは閉ざされており、外からは中の様子は何も見えないだろう。


気が付けばソファ上で先生と向き直っていて、自分の両肩に触れられ、ゆっくり唇を合わせている。

いつもしていることなのに、場所が場所だけに自分の方はどこかぎこちなくなり、落ち着かない。

先生にもそれが分かっているようで、リードされるような状態でキスをされている。

舌を差し込まれて、絡ませられる。

そうされれば頭の中は痺れて、余計なことは考えられなくなる。

息がし辛くなって、合間に洩らすように息をする。
これだけで興奮していくのが分かる。

目の前の先生のことだけで頭の中も心の中もいっぱいになる。
胸がドクドクと脈を煩いほどに打っている。
この人への想いが強ければ強いほど、激しくなっていくような気がする。

先生のその瞳の色を見ていると、おかしくなりそう。


好きで好きでほしくて堪らない人が自分を求めてくれるのだから、答えたい。

そうとしか考えられなくなる。
罪悪感なんて、何処に行ってしまったのか。
先の行為に期待しかなくなる。

何も考えられなくくらいに、滅茶苦茶にしてほしい。


望みを叶えられるように、先生に上半身の服に手を掛けられて、捲られて、下着をずらされ、肌を顕にさせられる。


部屋は明るいままで落ち着かないが、いつもと場所が違うからか電気を消すということに頭が回らず、恥じらうように顔を赤くして視線を落としてしまうだけで、それは思わず相手を煽るかのようで。


そのままソファに先生に押し倒されて体を横たえさせられるとそのまま覆い被さられて胸の頂に唇を付けられると思わず小さく声が漏れた。


声を聞かれるのが恥ずかしくて、そしてここでは声を漏らしてはいけない気がして、自分で自分の口を塞ぐ。


そうすれば先生は自分の口元に当てていた手をどかしてそのまま頭の上にまとめて縫い付けるように押さえた。


「もう、ここには誰も来ないから、声は我慢しなくていい」


そんな風に冷静に言われても朱音は首を振った。

先生は小さく笑う。

無茶苦茶に体中を攻められれば、声を抑えられなくて、噛み殺すようにするが、声はほとんど漏れている。

先生は返される反応がおもしろいかのように行為に夢中になっていて、自分は簡単に登り詰めさせられてしまう。


先生を見れば自分の胸元に貪り付くようでいて、その愛撫はどこまでも甘くて優しくてどうしようもないほどに快楽に沈まされていく。

こうなって仕舞えば、どこを触れられても敏感になって声が漏れ、体を捩る。

その反応に先生は笑って、焦らすように触れて全身攻め立てる。









「朱音、ベッド行くか」


動きが漸く止んで、そう耳元で囁かれると、身体中がぞくりと震えた。


「え、そ、それはどうかと…」


「別に構いやしないさ」


そう言って、服ははだけさせられたまま抱き上げられる。
身動きしたいが、なんとなく動けず持ち上げられたままだった。


そのまま運ばれて、薄く開いていた別の部屋の扉が足で開けられて、違う部屋に入っていく。

その部屋は電気は付いておらず、薄暗いが、あまり物がない部屋の端にはベッドが置かれている。


広いベッドだったが、そこもまた女の気配を感じさせなかった。

その上にふわりと置かれて、手を後ろ手について体を半分起こしたが、先生にはじっとその様子を見下ろされて落ち着かなさに小さく身動ぐ。

服はだらしなくはだけていて、露出されている。

暗いから恥ずかしさは少しマシだった。


でもこれからされることを想像するだけで、快楽を思い出して体が震える。

何度同じようなことを繰り返しても、体はまた求めているのが分かる。
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