Tatsumi Dream

□seek each other
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麗奈の部屋に辰巳がやってくる時、辰巳は疲れている時や苛ついている時がある。


大丈夫ですか、なんて麗奈が声をかけてもほとんど何も言わない。 


理由はなんとなく分かっている。


分かっていて麗奈はそのことについて何も聞けないでいた。

聞いたところで何もできない。自分には。


もう何も考えたくはない。
ただただ好きな人の傍にいたいだけだ。

それ以上は望まない。

例え自分がこのまま殺されるのだとしてもそれを良しとしている。心のどこかではたぶん。


きっと殺されるのだと分かっている。
しかし、分かってはいても明確な殺意は感じられなかった。


辰巳にとっては食事なのだからそうなのかもしれない。


単なる食事ならば殺意なんて持つことはあり得ない。
抵抗されなければ尚更。

そういうことなのかもしれない。


そして死の間際までに感じるような感覚は今はないから。

だから自分は未だ悠長にこうしているのだろう。





彼の腕の中に包まれている。


たぶん辰巳が眠るのは1日のうちここにいる時だけなのではないかと麗奈は思った。



忙しいんだろう。

それでも1日一回は会いに来てくれる。
そうして必ず1度は抱かれる。

それを自分は待ちながらただ生きている。


辰巳に会えなければ生きている実感など無くなっていくだろう。 


この狭い世界で最低限の生活をするだけでは最早生きているとは言い難い。


今は辰巳の吐息を感じている。
きつく抱き締められながらベッドで眠っている。

2時間経ったか、3時間経ったか、時計もないからはっきりとは分からない。


もうすぐ辰巳は起きてしまうだろう。


離れることに寂しくなって、辰巳の胸に頭を擦り寄せる。


この匂いを暖かさを覚えておきたい。

また明日には会える。きっと会えるはずだ。

それが当たり前のことであるかのようにここに来て刻み付けられるようにして毎日を過ごしていた。


洗脳されているのだと思う。

それでも辰巳がいなくなる未来をどうしても想像したくない。

麗奈は腕に力を込めて辰巳を抱き締めた。

そうすれば返ってくる力があった。


暖かい胸に頭を押し付けられて、腰をきつく引き寄せられ抱かれる。

厚い胸板から心臓の音がとくりとくりと伝わる。


起きてしまったんだろう。


足を絡ませて、ぎゅっと抱き竦められて。


幸せだな、なんて滑稽なことなんだろう、きっと。


でももう余計なことは考えられないでいく。

ただこの温もりだけは現実だ。


辰巳が起き上がろうとするのを麗奈は阻止するように抱き付いていた。


苦笑が零されるのが分かって、頭を緩やかに撫でられる。


「辰巳さん…」


麗奈が抵抗をやめると体が離れていく。

麗奈は縋るように手を伸ばした。
その手首を握られて、手首に口付けられる。

ふわりとした感触が手首から伝わって麗奈は息を吐いた。


「1日一緒にいてあげたいけど、悪いね」


そう言って頭をさらさらと撫でられる。
麗奈も上半身だけ体を起こす。


辰巳は手早く服を身につける。

麗奈はその体躯に見惚れてしまう。

辰巳もその視線に気が付いて、唇を弧に曲げて笑う。


「そんな目で見なくても、また明日ちゃんと抱いてあげる」


「そっ、そんな…」

違う、という風に麗奈は顔を赤くさせて首を振る。

辰巳は笑っている。


「辰巳さん、疲れてるじゃないですか。
全然寝てないんじゃ、ないですか」


「…まぁ、今は仕方ないんだ」


「そう、なんですか…」


事情は何も分からない。
分からないが、それでも疲れるようなことがあるのだとは理解する。


「あの、私のためなら、毎日、
あの、そういうことは、しなくても、大丈夫ですから…
会いには来て欲しいですけど…」


辰巳は手早く着替え終わるとベッドに座って麗奈に手を伸ばしてその頬に触れる。

途端にその頬は赤に染まる。

それを見て辰巳は目を細めて満足そうに笑う。


辰巳のことでいっぱいになっている麗奈を愛おしく思うせいなのか。


柔らかくキスを落とされて、腰に手を回される。

麗奈はひょいと軽々と抱き上げられると辰巳の膝の上に収まった。


「でも、僕に抱かれたいんだろう?」


「そ、それは…まぁ、そうですけど」


顔を覗き込まれて麗奈はしどろもどろそう答える。

髪を撫でられて背中を撫でられる。

その触れ方はどこまでも優しくて、まさか殺されるなどとは今は思えない。


それでも殺さなければいずれ殺されるのだろうか。


そっと抱き上げられて、辰巳は麗奈の胸元に顔を埋めてペロリと一瞬舐められる。

麗奈は恥ずかしいように思うが、そのまま辰巳の頭を抱き締めて柔らかな髪を撫でた。


例え殺されるのだとしても、今はこうしていたい。

辰巳が欲しい。そう思っている。


胸元に吐息が掛かって麗奈は僅かに体を震わせる。
抱き締められる力が更に籠められている。
それが嬉しい。強ければ強いほど。

それが愛情に比例しているような気がして。


「私、辰巳さんのことが、好きです」


麗奈も力を込める。

自分の気持ちはそうしなくても伝わっているのだと思う。
それでも伝えずにはいられない。

消えて無くなるその日まで、ずっと伝わっていて欲しい。

きっと覚えておいて欲しい。


ゆっくり抱き締められる力が緩まるのが分かって麗奈も力を緩める。


そっと離れていく熱が寂しいと思う。


目を合わせれば、どこまでも優し気な瞳とぶつかる。


綺麗な金色の瞳に見惚れる。


目を瞑れば唇を合わせられる。
それがどこまでも甘く麻薬のように胸から全身に広がっていく。

そうしてまた抱き寄せられた。
辰巳の胸に顔を擦り付ける。


「僕も好きだよ」


そんな風に言われて抱き竦められた。

麗奈は涙が溢れそうになるのを堪えるように辰巳に抱き付いていた。
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