Tatsumi Dream

□acclimatization
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麗奈は部屋に閉じ込められたこの生活に順応しているようだった。

もう何も文句を言うこともなくただ辰巳が訪れるのを待っているだけだった。


日に一度辰巳自身が食事を持っていく。

今ではほとんど残さず食事をしており、体調もほぼ以前のように戻っていた。


麗奈自身に逃げ出そうとする意思は全く感じられないが、一応念のため服は与えていない。

この姿で逃げ出そうとは思えないだろう。


未だ肌着一枚与えてはいなかった。

そのことは少し不満そうだったが、どうせ脱ぐのだから着ている意味など無いと思う。


大体は毛布を被っていたりシーツを被っていたりバスタオルを巻いていたり。







この日も汚れるからと言って辰巳がそれを奪った。
そのままジッと見られたままだと麗奈は食事をしにくそうにしていた。



麗奈の胸元にソースが溢れて、拭こうとする手を遮って辰巳は舐めとった。


途端に真っ赤になる麗奈を辰巳は笑って見つめる。


「食事は後にしてもらおうか」


「えっ」


「僕も眠いんだ」


そんな風に言えば麗奈はもう抵抗することなく自分に身を委ねる。

辰巳は麗奈の手首を掴んでベッドに押し付けて倒した。

濡れた瞳で自分を見上げてくる。
その瞳が明らかに欲に塗れていて唆られる。


何度抱いても飽き足らない。


初めはほんの偶然に出会っただけで、用が済めばさっさと殺してしまうつもりだったのに。


どうしてこう執着してしまうのかは分からない。


辰巳は唇を合わせて舌を絡ませる。

貪るように吸い付くと麗奈は苦しそうにしながら唾液を垂らして懸命に答えようとしていた。


唇を離せば深く呼吸を繰り返す。

何度されても慣れないようで呼吸の仕方が分からないらしい。
それも愛おしいとすら思う。


麗奈の首筋を撫でて、唇を押し当てる。


この日の自分の食事もまだだった。


麗奈は暗示にかかり易いのか、血を吸うとぼんやりとしてしまう。

それが少し惜しい。
物言わぬ傀儡にしてしまいたいわけじゃない。

血を吸うのは躊躇われて押し止まった。

それが伝わったのか、麗奈は辰巳の頭に手を回して優し気にそっと髪を撫でていた。


「大丈夫ですよ、血を吸っても」


麗奈は辰巳の耳元で呟くようにそう言った。

そう言いながら麗奈は身を固くしていた。

吸血の衝動には未だ耐えられないからだろう。


「怖いくせに」


辰巳も優し気にそう呟いて薄く笑う。

自分が人ではないとはっきりと分かった今でもこうして彼女は真っ直ぐに自分を求めてくる。

不思議な感じだ。

酷いことをたくさんされてきたのに、それでも。


しかしこうしてただ1人で部屋に閉じ込めているからだろうか。

もう麗奈が会うことができるのは自分だけ。

こうして会話する相手も自分以外おらず、考える機会をこうして奪っていけばきっと麗奈の思考は閉じていくばかりだろう。

そうなればこういう状態になって然るべきのような気もする。

もう彼女が求められるのは自分だけ。

酷いことをされないように身を委ねるしかないのだから。



その身の上を思えば一層辰巳は堪らずズブリと麗奈の首筋に牙を差し込んだ。
麗奈の体は小さく震えている。
そっと安心させるように麗奈の体を力強く抱き締めた。

まだ殺すつもりはない。

少し血を頂くだけだ。

麗奈も辰巳の背に手を回した。
不安から逃れるように。

酷いことをするのは自分以外にはいなくて、それでも自分に縋るしかない麗奈を少し不憫にすら思う。


暫くして牙を抜く。
噛んだところから血が流れてそれに吸い付けば、麗奈は体を固くする。
きっと痛みがあるのだろう。

それでも止められない。

強く吸い付けば血が口の中に入ってきて、麗奈は声を漏らした。

快楽なのか、苦痛なのかもう分からない声だった。

辰巳は身体を離して麗奈をそっとベッドに横たえる。

その瞳からは涙が溢れたようで、目尻が濡れていた。

気の毒だな、と思う気持ちもある。

そんな顔をしていたのだろうか、麗奈が口を開く。


「…大丈夫、です…」


微かな声量でそんなことを言った。
健気なものだな、と思わずにはいられない。

自分になら何をされてもきっともう何も言えないのだろう。

そんな風にすら思った。

濡れた目尻にそっと唇を寄せる。
麗奈も合わせるようにゆっくりと瞳を閉じる。

ちゅっと吸えば涙の味がする。

身体を離して辰巳は麗奈を見下ろす。
麗奈も濡れた瞳で辰巳をじっと見上げた。

その瞳は自分を映し出している。

何を思うのかは分からない。


「気持ちよかった?」


「分からない、です…でも…」


麗奈は微かに顔を赤くする。

吸血には催淫作用がある。

その効果はおそらく出ているのだろう。

瞳の色は欲に濡れているのが分かる。


「痛かった?」


「少し…でも、大丈夫です」


そう言って麗奈は弱々しく笑う。


死を覚悟して、殺される相手に抱かれるのは本当のところどういう気分なのだろう。

怖がらせたいのではない。
それでもこの関係はもう覆せない。

捕食するものとされるものの関係性は変えようがない。
起き上がらない限り。

起き上がる確率は低く、例え起き上がったとしても関係性が変わってしまうように思う。


人である彼女が自分を今こうして受け入れている状況に優越を感じているように思う。


屠られる者の存在に抱かれてそれを良しとしている。

その歪な関係の中で成り立つ曖昧で刹那的な拭けば消し飛ぶような儚さを自分は求めている。


そっと唇を交わせば、応えようと唇を開いて舌を絡ませてくる。

自分からすれば弱々しい力で心許ない。

それがどうしてか愛おしい。
そんな風に思う。
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