Tatsumi Dream

□two person
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「……よかったのか、敏夫」


「俺に言うなよな」


「でも頼りになるよ。少なくとも僕よりは」


「まあ多少なりとも知識がある方がいいかもしれんが…」


人がこれから先も次々と死んでいくかもしれないのに。

それでも麗奈には癒される思いがする。
底抜けに明るいその性格も。

その柔らかい笑顔も。


こんな状況でも凛と強くある。
そんな存在にどうしてかほっとしてしまう。

深刻になり過ぎずにいられる。
そんな存在は貴重だとそう思った。


「…取り敢えず病気の特定を急がないとな」


「ああ、そうだな」


やはり病気の特定が急がれるのは自明だった。

このままではとんでもないことになる。

確かに信用できる仲間が多いに越したことはない。

麗奈は頼りになると、そう思った。






















仕事を終えて家に帰り着くと、手早く食事を終えて、お風呂に入るとそのままパソコンの前にいた。

髪も乾かさずに夜風に晒す。

この状況を何とかしなくては。


何か原因があるはずだとそう思いながら、徹夜をしていた。



休憩にとお菓子を摘まむ。

ぼんやりとしてしまうと、思い出してしまうのは辰巳さんのことだった。


今彼はどうしているのだろう。
そう思った。

もう来ないのだろうか。
残されたメモ帳を立ち上げて、その部面を見る。


これは夢か何か。

また来る、なんて建前に違いない。
病気が遷るかもしれないのに、そんな危険を冒してまで自分に会いに来たりはしないだろう。

これはだから、全て夢だった。

一日共に過ごしたことも、全部。

別に構わないか、とそう思えた。


このままなら綺麗な思い出のまま。

それでも記憶は残ってはいないのだが。
少しも、記憶にない。

それでも、別に構わないか、とそう思えた。


危険に巻き込むこともないから。


そこからも暫らく医学書を漁ったり、ネットで調べていたが、結局は何も分からなくて、そのまま眠ってしまっていたようだった。


朝日に眩しく照らされて、目を覚ますとベッドで眠っていた。

どこかデジャヴを感じて、身体をがばりと起こしていた。


ばたばたと居間へ行くと、やはり見たかった人がそこにいた。

辺りはいい匂いがしている。


「…おはよう、麗奈」


「辰巳さん、何で…」


「居間で眠っていたから部屋まで運ばせてもらったよ。
もう少しで朝食もできるから起こすつもりで」


「もう、何で?
何しにいらしたんですか?もう来ないでって私、」


「そんなのは聞かないよ」


辰巳さんは近付いて来て、頭を撫でてくれる。

今の辰巳さんはいい匂いがして、鼻腔を擽る。


「サンドイッチとスープ、もう少しで…」


「辰巳さん…こんなこと」


「待っていてくれたんだろう?
メモ帳が開いていたよ、麗奈」


辰巳さんの言葉にはっとして、辰巳さんを見上げれば、爽やかに笑ってくれていた。

頬が熱くなってくる。


「でも、来るのが遅いじゃないですか…何で」


「ごめん。
僕にもすることがあったんだ。
寂しかった?」


「違いますよ!
この前、言い忘れたことがあったから。
このこと、誰にも言わないでくださいね!
病気のことです。
まだパニックになってしまっては困りますから」


「…何だ、そんなことか。
分かってるよ。誰にも言ってないから心配しなくてもいい」


「……そうですか」


ぷいと目を逸らし、いい匂いのする方へ視線は向かう。

昨日の食事は手っ取り早く済ませてしまったから、お腹が空いていた。


「さあ、食べよう。お腹空いてるだろう?」


辰巳さんはそう言って頭を撫でて、額にキスをした。

私は慌てて一歩を引いて、唇を押し当てられた部分を手のひらで押さえて、難しい顔をしながら辰巳さんを見上げていた。


清々しい表情だった。


やっぱり会いたかった。
なかったことにはしたくなかったのだと、そう感じてしまっていた。





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