High-School DayS

□High-School DayS W
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「ちょっと!本当どういうつもり!?木山羽瑠!?」


羽瑠は周りを数人の女子に囲まれていた。


「はぁ…どうもこうも」


嫌そうに羽瑠はきょろきょろと辺りを見渡す。

デジャブを感じていた。

既視感。


どこかで感じた。


しかしそれも本当は違っているのだ。


ここは最近徹が告白を受けていた場所だったから。


居合わせたというか附けて行ったというか。


以前にとりあえず羽瑠はこの近くに来ている。

校舎内ではあったのだが。


ああそれかと羽瑠は思い至っていた。


今羽瑠がいるのはその校舎裏だ。


告白にも使われるのだろうが、このような呼び出しにも使われるのだろう。


羽瑠はぼうっとそんな風に思っていた。


「本当あんた何なの!?」


羽瑠は思い出したように前を見据えた。


「…一体何が言いたいの。私に」


羽瑠は苛々としてきたのかそう言う。


このような呼び出しを受けたのは初めてではない。


羽瑠は溜め息を吐く。


「本当生意気!」


羽瑠は胸倉を掴まれそうになってひょいと身を引いて避ける。


「あー面倒くせ…」


羽瑠は呟くように言う。


「あんたね!何様よ!?」


羽瑠は更に一歩下がりながら口を開く。

と言うより詰め寄られて逃げ場を失っていた。


「で、何?
夏野か何か?それとも徹ちゃん?」


羽瑠は原因になりそうな名前を言う。


「呼び捨てにするなよ!
いくら同じ村出身だからってあんた二人にベタベタしすぎでしょ!?」


「……え。二人?」


このパターンは初めてだと羽瑠は思った。


この柄の悪さは夏野ファンかと思ったのに。


溜め息を吐いた。


二人ともとなると更に質が悪い気がする。


「夏野も徹ちゃんも二人ともなの?用件はどっちもなんだ…
面倒すぎ」


羽瑠は呆れたように言った。


「そうよ!二人には近付かないでくれない?そしたら私らもあんたみたいな平凡な女には関わらないで済むから」


羽瑠は苛々としていた。


「失礼ね。
…でも住んでる場所が同じなんだから仕方ないでしょ。
夏野はともかく徹ちゃんは幼馴染みだし。
マジ無理」


羽瑠はうんざりしたように言う。


「だったらファンクラブにちゃんと入りなさいよ!
あんたばっかり狡いでしょ!?少しは遠慮しなさいよ。
あんたみたいな普通な女が二人に近付けるなんて有り得ないわよ!!
ちゃんとファンクラブが存在してるのよ!?
知ってるでしょ!?
度々勧誘されてるのに何で断るのよ!?」


「……は。だってファンじゃねーし」


羽瑠は当然だと言うように呆れてぼそりと呟く。


「じゃあ何なのよ!」


「…友達、でしょ。
何言ってんの?」


頭悪いんじゃないの?とでも言いたげに羽瑠は言葉を吐く。


こういうことが定期的に起こるのだ。


その場のやり取りの内容は毎回そう変わらない。


同じことが繰り返されて嫌にもなると言うものだ。


そしてやはり。


「本当ムカつく!田舎者のくせに」


「それは徹ちゃんにも夏野にも失礼でしょ…?
二人にも当てはまるわよ。
ま、夏野は都会の出身だけどね」


「ど田舎に武藤くんとか結城くんみたいな男の子がいる方が不思議なんでしょ!?
あんたにしても清水にしても本当禄でもないわ。
二人が可哀想よ。あんたの住んでる村にはまともな女はいないわけ?」


「何言ってんのよ。
葵は普通の女の子だし、あんたらみたいなんに好かれる方が可哀想だろ」


まぁ、恵はともかく。


「はぁぁ!?」


そしてやはりいつものように手が振り下ろされて、派手な音が響き渡る。


これは開始の合図だったりする。



羽瑠は敢えて避けずに頬に平手を受ける。

頬を掌で押さえて顔をしかめつつも、思い切り睨み付ける。


いつもいつも結局。

暴力沙汰だ。


しかし先に手を出したのは相手の方だ。


これもいつもと何ら変わりはない。


口実をもらってしまった。

もう引き下がるわけにはいかない。


羽瑠は一瞬視線を逸らし、溜め息を吐く。


そして再び睨んだ。


「…私に喧嘩売ったこと、後悔させてやるわ」


不敵に笑んで、戦闘態勢に入っていた。













「…ということがあったのよ!何回目だと思う!?
さすがに今回は全部言わせてもらうわ!」


羽瑠は身振り手振りを加えつつ言う。


昼休み、屋上で夏野と徹と昼食をとっていた。


夏野と徹は既に食べ終わって、羽瑠だけが一人話し続けながらその合間にのろのろと食事を続けていた。


最後にデザートのプリンの蓋を乱暴に剥がし、口に含む。


「だからこれは名誉の負傷!」


羽瑠は頬を指で示す。

赤く腫れ上がっている。

そして他の細かな傷も羽瑠の体中に残る。


夏野も徹も顔をしかめていた。


しかし羽瑠に膝以外の怪我の理由を訊ねたのは徹と夏野の方だ。


一瞬躊躇うようにしていたが、結局羽瑠は全てをぶちまけた。


「…まぁ羽瑠が一応勝ったわけか」


夏野は言う。


「負けるわけがないでしょ?この私が!」


羽瑠は自信満々に偉そうに言う。


「でも俺は羽瑠に怪我なんてしてほしくないぞ」


徹は赤く腫れた羽瑠の頬に軽く触れる。


「だ、大丈夫よ。全然」


羽瑠は少し動揺しながら言った。


「でも、心配だ」


「…あ、ありがと、徹ちゃん」


羽瑠は照れたように小さく微笑んでいた。


「でも本当に鬱陶しい話だな。
確かに羽瑠が一番災難ではあるが」


「今回は二人ともにだったからね。特にファンクラブね…」


羽瑠は溜め息を吐いてプリンを掬って口に入れる。


「特に質が悪いのは夏野ファンだね…
告白減ったでしょ?
ファンクラブでそういう規定があるらしいよ?
聞いたところによると」


羽瑠は半笑いで言う。

夏野は思い切り顔をしかめた。


徹も笑っている。


「夏野好きな奴らは恵もそうなんだけど質が悪いのよ。
確かに見た目綺麗な子も多いけど性格がどうしようもなく悪い!
私が言うのもなんだけど私に言われても仕方ないくらいに悪すぎる。
腹黒いし、気は短いし、柄が悪くて仕方ない!」


「羽瑠は別に性格が悪いんじゃないだろ。
五月蠅いだけで。
遠慮もないけど」


「それ褒められてんのか貶されてんのか訳分からんわ、夏野」


「褒めてる」


「そうなんだ?素直じゃないわね」


羽瑠は言ってプリンを食べ終わる。


羽瑠は丁寧に手を合わせる。


「ごちそうさまでした。
…で、反して徹ちゃんファンだって!
徹ちゃんファンはさ、大人しめで可愛らしい子が多いよね。
まぁそういう子に喧嘩売られたこともあるから華麗に買ってやったこともあるけども。
ま、ファンクラブでは徹ちゃんに告白とか話し掛けるのは自由みたいなんだよねー
当たり前っつーかおかしな話だけどね。
徹ちゃんは友達多いしなぁ。
徹ちゃん好きな子はま、そんな問題ない。
一目惚れもあるっちゃあるんだろうけど徹ちゃんは女友達ってのに告られることも多いでしょ。
夏野と違って徹ちゃんは気さくだし」


「へぇ…それじゃ徹ちゃんはそん中から選べばいいと。
そうなれば羽瑠が煩わせられることもなくなるな」


「えっと…まぁ…
そ、それは徹ちゃん次第ではあるけど、ね」


羽瑠は徹を窺い見るようにしていた。


「でもほんと…徹ちゃんさ、今まで、いい子いなかったの?」


「告られた中には別にって感じだったな」


「…そう、なんだ」


羽瑠は明らかにほっとしたようにするのを夏野は目を細めて見る。


「でもね!夏野はさ、比較的普通の子にも好かれてたの!
あ。これ入学当初の話ね。
でもあんたの冷たすぎるくらいの冷たさにだんだん離れていって、それで今はとりあえず危ない女ばっかりになったのよ。
フられたぐらいじゃ諦めないし怖い集団だよ?
私もあまりそっちとはやり合いたくないんだよね。
だから私的には夏野にさっさと彼女出来ないかなとか思ってる。
恵とか恵とか恵とかどうかな?
恵なら敵を作っても簡単にはやられないでしょ?
今ですら敵だらけな感じだし…」


「有り得ないだろ」


「あ、やっぱり?」


羽瑠は小さく笑みを零す。


「じゃあ、やっぱりいつまで経っても私には平和は来ないんだ。
夏野勉強ばっかで女に興味なさそうだもんな」


「…いや。俺に女が出来たら羽瑠は満足なのか?」


羽瑠は驚いた風にし、興味津々といったように身を乗り出す。


「…へぇーそういう気あるんだぁ。
徹ちゃんのファンはまぁそう面倒じゃないけど夏野のはちょっとなーって思ってたから丁度いいわ。
頑張れ。応援するよ」


羽瑠はガッツポーズを取って言う。


「へぇ。応援してくれんの」


羽瑠は演技懸かった仕草で目を瞑り、胸に手を当てて言う。


「……これは私の平和のためでもあるからね。
とりあえず。
夏野は私に必要以上には近付くな。
危険だ」


徹は苦笑いで夏野は顔をしかめる。


「徹ちゃんは、頑張って彼女作らなくていいから、ね」


羽瑠は人差し指を立てて徹に言う。


「何でだぁ?」


「あー…まぁ。
好きな人が出来たらしょうがないけど…
でももう三年なんだからさ。
それより将来のこと考えようって話なのよ。ね?」


「まぁ…」


「そういうお前は?」


夏野はすかさず言う。


「私?まだ一年じゃん。
先を考えるのは早いって。
夏野は早すぎるのよ、大体」


「確かになー夏野は真面目に勉強してるよな」


「ま。どんだけ外場嫌いなのって話だよ。
私は何だかんだ言って村が好きだからね」


「あんな村有り得ないだろ。じゃあ羽瑠は村を出ないのか?」


「んー…そうだなぁ…
大学なんかで都会に行くのはいいかもしれないとは思う。
まだ分かんないけどさ」


「結局は村に戻るのか?」


羽瑠は一瞬考え込むようにしてからいいことを思い付いたように顔を上げた。


「あ。ねぇねぇ。
看護婦とかよくない?尾崎医院でさ」


「…若先生嫌がりそうだな」


「あ。やっぱり?
先生に提案してみようかな?」


「拒否られそうだな」


「失礼ね、本当に」


羽瑠は夏野をねめつけるように見て、それから小さく笑う。


「でもね。
私は生まれた頃からあそこで育ったの。
私の基盤は村で出来たものだし、確かに不便な田舎かもしれないけど、大事に思える人がたくさん出来たのも村のおかげなんだよ。
村がなくては出会えなかった人もいたし、そこからの繋がりは私には大切すぎて仕方ないのよ。
だから喧嘩売られるのも仕方ないよね。
私はずっとこうしていたいと思うもん。
贅沢なんだよ」


「そんなことないぞ。
俺だって羽瑠が離れていくのは嫌だし、こうやって絡めなくなるのは嫌だ」


「…ありがと、徹ちゃん」


羽瑠は屈託なく笑った。


「でもちょっとは反省しなきゃ。
この立場にいられることをもっと謙虚に受け止めることにするわ」


羽瑠は立ち上がる。

制服のスカートの裾や髪が風に靡く様は、羽瑠であればどこか清々しくて爽やかな印象を与える。


「昼休み終わっちゃうね。
授業サボろっか?」


徹は賛成とでも言うように笑って、夏野は反対とでも言うように顔を背けて、しかし仕方なさそうに結局は笑っていた。






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