High-School DayS

□High-School DayS
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清々しい日よりだった。


雀がぴーちくぱーちく五月蠅くて堪らない。


大きく伸びをして欠伸をしていた。


「徹ちゃん、おはよー」


羽瑠は朝早く、バス停で徹に会った。


高校へ行くためだ。


大抵はこのバス停が使われる。


「はよー羽瑠」


頭をぐしゃぐしゃと撫でられて嬉しいやら悲しいやら。


一応朝早く起きて髪をセットしてきているのだ。


溜め息が出そうになった。


それでも今は二人きりだ。

珍しい。


「葵と保は?」


「すぐに来ると思うぞ」


暢気ながら眠気を感じる声が返ってくる。


「そっかぁ…にしても眠そうだね、またゲームでもしてたの?」


「まぁなー…」


徹は欠伸を噛み殺す。


「授業中寝ないようにね…」


「…努力する」


徹は笑って羽瑠も笑う。

穏やかな時間。


それもすぐにぶち壊される。


「はよ、徹ちゃん」


羽瑠はきっと声の主を睨むようにする。


「はよー夏野ー」


徹は笑う。


夏野は自分には声をかけすらしないようだ。

生意気な奴だった。


「夏野、今日は自転車じゃないの」


「バスの方が楽だからな。
つーか名前で呼ぶな」


「あっそう。結城小出くん。
徹ちゃんは名前で呼んでもいいんかい。
あんたさ、自転車で行けばいいのに。
邪魔だわ」


「お前な…」


「お前ら二人は仲いいなー」


徹の暢気な声。


「何でそうなる」


「違うっつーの!」


夏野の声と羽瑠の声が重なる。


「おはよー徹ちゃーん!!羽瑠ちゃーん!」


朝からハイテンションな声に夏野と羽瑠は同時に舌を打ち、徹はおかしそうに苦笑する。


「おはよう、正雄」


徹しか返事をしない。


羽瑠はつーんと無視をして前を見る。


徹は人が良すぎる。


恨めしくなるほどに。


ああ。好きなのだ。

それなのに。
周りは騒がしくて堪らない。


次にやってきたのは。


「おはよう、結城くん」


大分声が高い。
恋する乙女、第二号。
乙女にしては少々腹黒い。


「来たか、このストーカー女!」


羽瑠は声をかける。


「誰がストーカーよ!バカ羽瑠!
…ねぇ、結城くん?失礼よねぇ?」


夏野は当然のように無視。


羽瑠は少し恵を可哀想に思う。
同情する。


「…ねぇ、夏野。
恵は可愛い方だとは思うよ?」


本当にそれだけは本気で思う。


「ストーカーとか言うあんたにそんなフォローされたくないんだけど」


「恵は可愛いねって話じゃん。有り難がって欲しいわ」


ストーカーは事実だろうと羽瑠は思うが敢えて何も言わなかった。


「全然有り難くないんだけど!」


「お前ら朝から元気だなー」


脳天気な徹の声が聞こえる。


「女って怖いよなー」


「五月蠅いわ、正雄」


羽瑠は鋭く言う。


正雄は怯えたように羽瑠を見ていた。


羽瑠は目も合わせない。



「おはよう、羽瑠」


「はよー」


次にやってきたのは徹の妹と弟。


よく似てると思う。


「おはよ、葵、保。
徹ちゃんより遅いなんて珍しいね」


「…気、遣ってあげたのよ?」


葵は羽瑠に言い、片目を瞑る。


羽瑠はう、と言葉に詰まる。


顔が熱くなる。


ほぼ皆にバレているこの気持ちを本人だけは全く知らない。


「まぁ無意味だったけどね…
騒がしくって…」


羽瑠は熱くなった頬に手を当てて溜め息を吐く。


「えー…」


葵は残念そうに言う。

確かにこのメンバーが集まれば仕方ないし、ほぼ毎日集まるのはどうしようもない。


「五月蠅いのは主にお前だろ」


「夏野くん本当五月蠅いわ。
盗み聞きしないで?
有り得ない。
何で君モテるの?
意味不明だわ」


羽瑠はさらりと言ってのけて大袈裟に肩を竦めて見せた。


「…お前な…」


「羽瑠!結城くんに絡まないでよ!」


ずかずかと間に割って入ってくる恵。


「いや、絡まないし。
恵、早くこのいけ好かないガキどうにかしてよ。
顔はあんた悪くないんだから。
頭は悪いけど」


「俺と学年一緒だろうが。しかも同じクラスだろうが」


「そうだっけ…?」


「私とあんた成績そんな変わらないでしょ!?」


「…えっ、止めてよ。
恵の可哀想な頭と一緒にしないで。
かなり迷惑なんだけど」


羽瑠は心底迷惑そうに眉を下げて首を何度も振っていた。


「えっ、羽瑠って頭悪いのか?」


「えぇっ!徹ちゃん」


羽瑠は悲痛な声を漏らす。

頭が悪いなんて思われたくない。


「徹ちゃんさ…
学年違ったら確かに分からないかもしれないけど羽瑠が頭良い訳ないだろ…」


夏野が呆れたように言い、羽瑠は後ろから殴ろうとするがひょいと避けられる。


「このガリ勉メガネ!ハゲ!最低だ、バカ夏野!」


「メガネじゃないしハゲでもない」


「五月蠅いわ!目悪くなって、ハゲろ!」


羽瑠はわぁっと叫んでよよと徹の側に寄る。


「俺が勉強教えてやるぞ。
一年の勉強ならなんとかなるだろ」


「えっ!本当!?」


羽瑠は徹の腕を握る。


「ああ。いつでも大丈夫だ」


「ありがとう、徹ちゃん!」


羽瑠は思い切り抱き付いて、葵だけが微笑ましそうに羽瑠を見ていた。


他の者は呆れかえっていた。


バスがやってきてこのまま徹の隣を狙っていたが、正雄に邪魔をされて追いやられてそのまま恵の隣に落ち着いた。


「正雄なんかに邪魔されるなんてツいてないわね、羽瑠」


恵はおかしそうに笑う。


「全くだ!正雄、保の隣じゃないのか!私に譲りなさい」


夏野は鬱陶しそうに顔を上げて周りを睨んでいた。


「何だよ、羽瑠ちゃーん」


「正雄、五月蠅い。退きなさい」


「ひでぇなぁ…」


保も苦笑する。


恵は周りの喧噪など気にした風もなく夏野を眺める。


羽瑠も仕方なく席について溜め息を吐いて熱い視線を送る恵を見る。


「何がいいの?夏野の」


「全部よ。分かってないわね」


見ると夏野は単語帳なんかを出して、真剣な表情で見ている。


周りは談笑していたり寝ていたりするのに。


羽瑠は耐えられずに立ち上がって夏野に真っ直ぐ指を差した。


「お前は受験生か!」


夏野は当然無視だった。


「おい、夏野…聞け…」


恵は慌てて羽瑠の手を引いて座らせる。


「邪魔しちゃ駄目よ、羽瑠」


「殊勝ね、恵?」


「こんなんで殊勝とか言われても…」


羽瑠は溜め息を吐いた。


「あんたこそ何で徹がいいの?」


「優しいし格好いいし…大好き」


「まぁ、分からないでもないけどね…」


「でしょー!?分かるよね!やっぱ!恵もそう思うよね!?」


恵の肩を乱暴に揺さぶる。
恵は揺さぶられて髪がゆらゆらと揺れる。


「五月蠅い…
分かるよ、分かるけどあんた本当五月蠅いわ」


「でも恵にはあげないよ?」


「いらないわ」


恵は即答した。


「でも夏野だけは理解できないな…」


「でも格好いいでしょ?」


「生意気だよ…あいつは」


「羨ましいんだけどね…あんたが。
何の遠慮もなく話せるし」


「私もよく無視されるけどね…
とりあえず応援してるよー恵」


「私も応援するわよ、勿論」




* * *




「女って怖いよなー徹ちゃん」


「いや、そんなことないぞ」


「え?」


「かわいいところもある」


「嘘だろ、徹ちゃーん…」


「俺は好きだよ」


正雄は絶句していた。


この会話を羽瑠は知らない。




* * *




「あ!恵…」


羽瑠は気付いたように恵に話しかける。


「ん?何?」


「数学の…宿題…やってきた…?」


羽瑠の顔色は悪くなる。


「………私がやるわけ、ないでしょ…?」


「やっぱね!
でも、ヤバいヤバいヤバいー!
私今日当たるんだって!
夏野!助けて!夏野様!」


夏野はいつの間にかイヤフォンをして外界の音を遮断していた。


「おい!夏野!聞いてるのかー!」


羽瑠は数学のノートを投げていた。


「怖っ!」


正雄が震え上がる。


「……」


徹も苦笑する。


「ヤバいよー」


ノートを投げつけられた夏野はイヤフォンを外して羽瑠を睨む。


「助けて!結城くん!」


「お前が黙ったらな」


羽瑠はぱぁっと表情を輝かせる。


「本当!?」


「ああ。とりあえず黙ったらな」


「分かった!」


羽瑠は黙って夏野も満足そうに笑う。


「やっぱ羨ましい」


恵はぼそりと呟く。


「ライバルは夏野だな」


徹もぼそりと呟く。


「よかったよかった、助かったー」


羽瑠は言って大人しく座る。


どうせすぐに喋り出すのだとみんな思っている。


朝早いバスの中。


ゆらゆらと揺られながら学校を目指す。


満足そうに微笑む羽瑠。


不満そうに外を眺める恵。


単語帳を睨む夏野。


微笑ましそうにしている葵。


眠そうに欠伸を噛み殺している保。


女に異常にビビる正雄。


実は羽瑠を見つめる徹。


外場村高校生の朝は騒がしい。


一つ欠伸を漏らした。


「眠…」


静けさを破るのはやはり羽瑠の声だった。


「学校遠すぎるよね。有り得ない」


羽瑠は溜め息を一つ零した。






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