High-School DayS

□High-School DayS ]Y
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好きになって好きになって地獄に落とされる。


そんな風な夢を見ることがある。


こうして2人で会える時間は束の間の幸福であって終わりがあると心のどこかで思う。


なんだかんだ羽瑠は勉強を続けていて、一応は大学を目指している。

いつまで続くものかは分からないが。

高校一年前半から本格的に勉強できる人間も少ないだろう。

羽瑠は本気でやれば成績も伸びると思う。
このままいけば大学受験もできる。

地獄に落ちる夢を見ながら、この先もずっと一緒にいられるんじゃないかと錯覚を覚える。

最近は好きになり過ぎて苦しくなるほどだ。

惚れた方が負けなどと誰が言ったのか。


勝てる気がしなくてそんな自分に呆れる。
以前から好きだったことは変わりないのに、それがますます深くなるのが分かる。

底がないというか。

不思議だとすら思う。
感情は複雑なものだと思い知る。

そしてこんな感情が自分の中にあったことが信じられない。

夏野は深く息を吐いて、羽瑠は漸く顔を上げる。


「疲れた?夏野?」


「ああ。まぁ。集中してたな」


「ん、私?」


「ああ」


ずっと見てたのに気が付かない。
最近では集中力も出てきている。

羽瑠は腕を上げて伸びをする。


「帰る?」


「まぁ、根詰め過ぎてもな」


「でも私家で勉強なんてしないんだよなぁ〜」


「だろうな」


「うわバレてるわ」


羽瑠はパラパラと問題集を繰って結局閉じる。


「ジュースでも飲んで帰ろ」


さっと片付けて教室を出る。

日が傾きかけて、夕日が差している。

こんな何でもない日常を何年も経ってまた思い出すような気がしてそれが切ない。

それを思い出す時にまだ傍にいてくれていることを祈るように夕日を見る。


今はまだ羽瑠も続くと思っていると夏野も感じる。

でも、全てを知った後に本当にここにいることを選んでくれるかどうか、それは保証されないだろう。


自分は人の隙に付け込んで上手いように取り入っただけに過ぎない。


いっそ後戻りできないように羽瑠を精神的な意味で閉じ込めてしまいたい気持ちに駆られる。

それと同時に絶対に傷付けたくないと思っている。


もっと自分勝手に求めることができたならばどれほど楽だっただろう。


幸せになってほしいと思う。
幸せにできるのは自分だと信じている。

羽瑠の本当の気持ちは蔑ろにして。


つき合えなくてもいいと思っていた。
羽瑠は徹といずれつき合うような気がしていた。それが正しいことのように思っていた。
両想いだったのだから当然だ。

実際、今の状況は自分にとって棚ボタに過ぎない。


どうしてこんなに好きになってしまったのか皆目見当もつかない。

告白した時はここまでの気持ちになってしまうとは思っていなかったような気がしている。


人間は貪欲なのだと思い知る。


自分は清水恵と武藤徹に本当のところを話そうとしている羽瑠を引き留めている状態だ。

先延ばしにして意味があるかは分からない。
でも決心がつかない。

失うかもしれないということが受け入れられない。



自販機の前について適当に飲み物を選んで出てきた紙コップを持ってベンチに座る。

「もっと前から羽瑠に会ってればよかった」


ポツリと夏野はそんなことを溢していた。
羽瑠は首を傾けて意味を察したのか少し考えるようにして言葉にする。


「なにそれ、もっと前に引っ越して来たかった?村嫌いなくせに」


「もう別に嫌いじゃない」


「いや、嫌いでしょ、何言ってんの。
高校卒業したらほとんど帰らないつもりでしょ」


そんな風に咎めるように言う羽瑠に夏野は笑ってしまう。
その通りだと思う。


「別に夏野に無理強いする気はないけど、私は帰るからね」


「俺も帰るよ、羽瑠の実家があるんだから」


何を想像したのか羽瑠は微かに頬を染める。
そして羽瑠紙コップに口を付ける。


「そうだね、一緒に村を出るんだもんね」


羽瑠はそんなことを言った。

想像すればきっと楽しいだろう。

まだ2年以上も高校卒業まで時間があって、そんな未来は本当に来るんだろうか、とすら思うが。


「それで一緒に暮らすんだからな」


「ま、まぁ楽しそうとは思うけど私親にまだなんも言ってないからね、大学のことも」


「いいよ、まだ。
羽瑠の成績がちゃんと上がって、それから俺が言いに行くから」


「なんていうの?」


「将来のことも考えてるから、一緒に暮らさせて欲しいって」


「な、夏野は度胸あるよねぇ」


そう言って顔を赤くして視線を逸らす羽瑠を夏野は見て笑う。


「それぐらい本気だから、何だって言えるよ」


夏野は立ち上がって羽瑠の前に立って手を伸ばす。
羽瑠は顔を赤くさせて首を傾けてよく分からないと言った顔で夏野の手を握った。

夏野は吹き出す。


「ゴミ。捨てるから」


わたわたと慌て出す羽瑠か愛おしいと思う。
そして羽瑠は夏野に漸く紙コップを手渡した。


「馬鹿だなぁ、羽瑠は」


「馬鹿じゃないわ!なんか言ってよ!」


「分かるだろ、普通」


「いや、分からんわ!タイミング的にそうなのかなとか思うじゃん」


「なんだよ、タイミングって」


「手、握りたいのかなとか…」


「ふぅん、まぁいいけど」


夏野はそう言って紙コップを捨てて座ったままの羽瑠の手を握って立ち上がらせる。

自分へと気持ちが傾いているかどうか本当のところは分からないが、拒否されてるわけではないし、嫌われているわけではないことはよく分かる。

時折見せる切なそうな表情や徹を見る表情には胸が痛むような気がする。


羽瑠の手を引けば大人しく着いてくる。

もう自分を羽瑠の方から選んでしまったのだ。

ゆっくりでいい。
時間をかけて自分を必要としてくれればいい。


そうは思うのに時間をかければ取り返しがつかなくなるような気がして気が急いてしまう。

振り返れば笑顔が見られる。

信じてもいいと思う。今だけはまだ。

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