High-School DayS

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誰にも言えない関係なのだと思う。
大袈裟かもしれないけれど、今はまだ自分達の中だけで秘めておいた方がいい。

きっといつかは知られてしまうのかもしれないけれど。

いや、きっと言わないといけないだろう。
隠し通せたとしてそれはそれで胸にしこりのようなものが残るから。




羽瑠は早く目覚めた日はバス停に出来るだけ急いで行くようにしていた。
バスは1時間に一本しかない。

みんなが使うのはほとんど同じ時間のバスだ。
つまりバス停で同じ高校のほとんどのメンツと顔を合わせることになる。
でもバス到着時間より早く行けば、誰もいないかもしくは。


夏野がいる。



羽瑠は息を切らしてバス停まで走る。

何をやっているんだろう。朝から疲れることをして。汗をかいて。

それでも羽瑠は立ち止まらずに走る。

バス停が見えてきたところでやっぱり見知った後ろ姿が見えた。
近付いてから呼吸を整えるために歩く。
音に反応して振り返る人。


「早いな」

「…夏野こそ。
おはよう」

夏野もおはようと言って笑った。
嬉しそうに笑うなあと羽瑠は眩しそうに見遣った。

時間とかを示し合わせているわけじゃない。


でも早くに行けば夏野に会えて、周りにも人がいなくて。
気にせずに話すことができるからなんとなく羽瑠は続けていた。


自分は夏野をちゃんと好きになっている。
そう思う。

少し早く来ただけでこんな風に嬉しそうに楽しそうに自分を見てくれる人なんてきっと他にはいない。
そう思えるのがこそばゆくて、でも心地いい。

きっともっと好きになっていける。

こんな気持ちを教えてくれたのは夏野が初めてだ。

胸にかかる靄を振り払うように羽瑠は首を一度振る。
間違っていないはず。きっと大丈夫。


時間が経てばちらほらと人が集まってくる。

そうすれば夏野との会話も途切れる。

こうしているときっといつかは知られてしまうんだろうな。
でもそうなれば気にせずに一緒にいられるんだろう。

バスが来ても夏野の隣に座る間柄ではなかったなと思い返す。
たぶん思い出せる限り隣に座ったことはなかった。

徹ちゃんの隣に座ることもそんなになかったと思うけれど。


適当なところに座って景色を見る。
ふと隣に人が座る気配がして振り返る。

恵だった。
胸がどきりと跳ねる。

今一番気になるところではある。
きっと恵は許さないだろう。

自分が好きだった相手も知っているから。

恵は怪訝な表情をしたがすぐに笑顔を作る。


「おはよ、羽瑠」

「おはよ、恵。
遅かったね、ギリギリじゃん」


バス停では見かけなかった。
ギリギリバスの到着に間に合ったのだろう。


「ほんと、乗り遅れるかと思ったー」


「よかったね」


羽瑠はそう言いながら手に持っていた単語帳に目を落とす。

恵がこちらを見ているのが分かった。
羽瑠は微かに動揺するが気が付かれたかどうかは分からない。


恵は前を向いて話していた。


「最近のあんた、なんか変よね」


え、と声が漏れる。
そんなに変だっただろうか、と思いながら動揺を隠し切れていない気がして目が泳ぐのが分かる。


「学校に来なくなったり、かと思ったら勉強始めてみたり?
それに最近暗いというかおとなしい?というか、とりあえず変よ。馬鹿みたいに騒いでうるさくしてたのに。なんかあったの?」


「いや、グルグル考えすぎてただけで…」


「まぁ、あんた意外と根暗だもんね」


「ええっ?私が根暗!?」


ふっと恵は笑って、いつもの感じになったじゃん、と言った。

最近の自分はおかしかったのか。
それは、そうだ。こんなことになると思っていなかった。

今までどう過ごしていたんだっけ。
羽瑠は窓の外の景色を見る。


「変な気起こさないでよね」


恵はそう言って目を瞑った。
学校に着くまで眠るのだろう。

ずきりと胸が痛んだ。羽瑠は窓に指を触れる。

ごめんね、と心の中で謝る。
恵に届きはしないのに。

ぽたりと一雫の涙が落ちた。
自分勝手なものだ。
自分自身がそう望んで今があるのに。


単語帳は鞄に仕舞う。


確かに以前の自分と違うのだと思う。

恵にももちろん葵にも保にもそして徹にも言っていないことがある。


長すぎる片想いは辛すぎた。
叶えるつもりもなかった。本当に。


もう元には戻れない。
でもこのままにするのも間違っているんだろう。

遠ざかっていく外場村。


自分が生まれて育った場所。


思い出がありすぎる。


いつから徹ちゃんのことが好きだったんだろう。



羽瑠も目を瞑った。
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