High-School DayS

□High-School DayS XIV
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時計の針は正午を過ぎていた。




「……なんかもうこんな時間だし勉強する気なくなったな」


夏野は溜息を吐きながらそんなことを言って、隣に座る羽瑠の手に触れる。
羽瑠は慌てて身を乗り出すように夏野の足に触れながら、説得するように言った。


「いや、それは困る!
いろいろ持って来たの、前のテストとか、直しとかしてなかったら、分かんないままだし、
というかなんでリビングなの?
夏野の部屋行こうよ、そっちの方が」


「いや、あの部屋居心地悪いから」


夏野が目を逸らして、そんな風に言う理由が分からなくて羽瑠は首を傾げる。







「まぁ、別にどこでもいいんだけどさ…
そういや、夏野、大学は東京なんだよね」


「ん?ああ、そのつもりだけど」


夏野は何とは無しにそう答えて、羽瑠の方を見る。


「…実は、私も、
大学進学本気で考えようかなって、思ってて」


「え?」


夏野は驚いたようにして羽瑠の目を見る。


「いや、えっと、
今までそんな考えてなかったんだけどさ、夏野見てると、そういう選択肢もありなんだなって思えてきたっていうか、
まぁそれまでは本当なんも考えてなかったんだけど、
夏野がこんな頑張ってるんだから、私もちゃんとしてみたいなって、
そしたらなんか変われる感じがして、今までと違って、夏野がいれば、私も!」


羽瑠は一気に捲し立てるようにそんなことを言いながら、夏野を期待を込めたような瞳で見上げる。

夏野自身も期待を込めた目で羽瑠を見ているのが分かる。



「……東京に行く気か?」


期待の籠もった声色で夏野もそう羽瑠に問う。


「うん、そうだね、出来れば知ってる人がいた方がいいし、
うーん……というか、私には夏野がいた方がいいかなって、そう思って、
夏野はどう思うか分からないけど」


羽瑠は少し考えるようにそんなことを言って、また夏野をちらと伺うように見る。

夏野は思わず羽瑠の手を探して握ってしまった。


「…いや、正直それは、嬉しい」


そう言って、夏野は嬉しくなる気持ちは止められない。


「そ、そう?それならよかった」



羽瑠はほっとして息を吐く。

夏野は首を振るようにする。



「…というか、
いつか言おうと思ってたんだ。一緒に大学行けたらって。
でもそれは家の方針とか、いろいろあるだろうから強制とかは出来ないし、
でも、そうなればいいとずっと思ってた」


「そうでしょ、
でも、そのためには家族説得しなきゃいけないから、私が勉強できるようにならないといけなくて…
夢とかはまだ分からないけど、大学行っていろいろ探してもいいかなって」



「じゃあ、大学行ったら…」


夏野は少し言葉にしていいかどうか悩むように目を逸らし、それでも言葉にすることにして、羽瑠の顔を見る。
羽瑠は微かに首を傾げながらうん、と言って夏野の目を見て頷く。




「一緒に、住まないか。
家賃とか光熱費も折半できるし、家事とかもお互いでカバーできるし、
もちろん、羽瑠の親がいいって言ったらだけど」


夏野は迷うようにそう言っていた。
羽瑠は瞳を輝かせる。


「なにそれ、すごく楽しそう」


羽瑠は本当に楽しそうにそう言って笑うから、明るい未来が想像できて、夏野は思わずまた羽瑠を抱き締める。

羽瑠は驚きながらも夏野を受け止めて背中を撫でる。


「なに夏野〜そんな嬉しいの?でも、私が勉強できなきゃ無理な話だからね」


「血反吐吐くまでやれよ」


「うっスパルタ夏野だ…!」


羽瑠はげんなりとそう言いながらも楽しそうに笑う。


卒業できるまでこのままでいられれば、きっとその後も続けられるんだと夏野は少し安心したように息を吐いていた。









「それにしても点数が悪すぎる…」


夏野は機嫌が悪そうに顔を顰める。
たぶん機嫌が悪いんじゃなくて本気で呆れられているのだと分かって羽瑠は冷や汗を掻く。

今までも頭がいいとは思われていなかっただろうけど、それでもちゃんとした点数は見せたことがなくて、少し恥ずかしい気がしたが、それ以上に呆れられているのだと分かるから、なんとなく居心地が悪くなる。


「赤点はないにしても平均点割ってるのも多いな」


「いやぁ…
やっぱ難しいかなぁ〜」


羽瑠は頭を掻くようにして笑う。
でも夏野は少しも笑わなくて、羽瑠は目を逸らす。


「やるって言ったんだから本気でやれよ」


「………………はい」


「目を逸らすな」


「はぁい!」


無理やりに夏野の方を向かせられるように顎に手を当てられて、羽瑠は無理やり夏野に視線を合わせられる。

そうしたら夏野は笑っているから、羽瑠も笑ってしまう。


「大丈夫だ、ここから点数上げるだけならいけるだろ」


「んん、そうかな」


「ここまで来たら、それなりの大学行けるくらいにならないと絶対に許さないから」


う、と羽瑠は息を詰まらせる。
余計なことを言ってしまったかもしれない、と思うが、本当にここまで来てしまうとやるしかないのだと思い知る。

言ってしまってよかったのか、どうなのかと思うが、きっとそれでまた前に進める気がした。


「よろしくお願いします」


そう言ってしまえばきっともう後戻りはできない。
夏野に冗談は通じない。そういうタイプではないと思う。

頭を撫でられて、羽瑠は目を細める。


「心配すんな、
俺が個人的に羽瑠とずっと一緒にいたいんだ、
だから、羽瑠の成績が上がるまで、俺がちゃんと見るから」



夏野の瞳は優しい色をしている。
本気で怒られたり、呆れられたり、でもこうして優しくされたりして、なぜか自分の方が振り回されているような気分になる。

自分にここまで向き合ってくれる人などいない気がする。

居心地が悪いような、そんな気がするのに、何故か高揚する気持ちも浮かんでくる。

羽瑠にとってこんな気持ちは初めてだった。

誰かの恋心が重なって合わさるとこうなるのだろうか。
だから体験したことのない感覚に晒されるのか。


大切に秘めたい想いに変わっていくのがわかった。
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