High-School DayS

□High-School DayS XIII
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「ちょ、ちょっと、夏野近くない?」


「何か問題でも」


「いや、問題でしょ、ここ外なんですけど」


誰もいないけど、と夏野が答えれば、まぁそうだけど、と羽瑠はゴニョゴニョと呟く。

ここは高校の屋上。
人は確かにいない。外であるのは間違いないが。

屋上で2人何気ない話をしていたが、夏野が羽瑠の腰に手を回して近付いてきたので、羽瑠は少し体を引かせるようにしていた。

恥ずかしいのか横にぷいと顔を逸らしている。
頬が微かに赤くなっているのが分かって夏野はおかしくて笑う。


「なんで笑ってんの?」


羽瑠は怒ったようにそう言ってこちらを振り返る。



「赤くなってるから」


羽瑠ははっとして顔に手を当てる。
赤くなってるとは思いもしなかったのだろう。


「そ、そりゃ外でこんな近付かれたら恥ずかしいわ!」


「だから誰もいないって」


「いや、そういう問題じゃなくて!」


「じゃあ、どういう」


「面食いじゃなかったつもりだったんだけどね!私!」


はぁ?と夏野の頭の中では疑問符が浮かぶ。


「そ、それでもやっぱり、私から見ても夏野はイケメンなのは嫌というほど分かるし、いきなり近付かれると、なんか、すごい照れるわ…馬鹿夏野!!」


羽瑠の意図することがはっきり分からずに夏野は首を傾げる。


「なんで突然」


「別に突然じゃない!今までそんな距離とか意識したことないから、近くで顔見るとなんか……緊張するわ!」


羽瑠自身困惑しているように見える。
夏野は横からそっと手を伸ばして羽瑠の背中に両手を回す。

体が暑い。そして羽瑠の心拍数が心なしか速い。

以前は意識なんてしてもらえてなかった。
今だからこうして自分の存在を注視してもらえるんだろう。


「な、夏野!」


「こうしたら、顔見えないだろ」


た、確かに、と呟いて羽瑠もおずおずと夏野の背中に手を回して抱き締め返す。


「確かにこれならちょっと落ち着く…かも…」


耳元で聞こえる声が愛おしい。
羽瑠の頭の方に手を伸ばして髪を撫でる。

自分の脈の方がきっと速いに違いない。
羽瑠はなぜか落ち着いたようで何も言わずに大人しくなる。

少しずつ、少しずつ彼女の心は自分の方に傾いているのだろうか。

それが分からないから自分の方はいつまで経っても落ち着かない。
いつか失うかもしれない。

今の羽瑠に気持ちがなかったとしても仕方ない。自分はそれを了解してこうして傍にいる。
触れることもできるのだから、文句の筋合いもない。

暫くその感触を夏野は堪能していた。




「そういえば!イケメンといえば!」


羽瑠から突然声が上がって夏野は手を離して体も離して2人は向き合う。


「…なに」


羽瑠は夏野の顔を見て盛大にひとつ溜息を吐く。夏野は顔を顰めている。


「確かにイケメンだから仕方ない」


羽瑠がそう言って、夏野は一瞬イラっとした顔をするがすぐに無表情に戻る。

羽瑠は人差し指を立てて言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「夏野なんか呼び出されてたよね」


私知ってるんだから、と羽瑠はそう言って、夏野は一瞬逡巡するが、すぐに思い当たることがあって羽瑠に頷きながら返事をする。


「それってさぁ、告白!?」


「…さぁ」


何故だかこの会話が無駄に感じられて面倒で夏野はとぼけたようにする。
羽瑠の目は真剣だ。
そうだったとして羽瑠が何を言いたいのか夏野には分からない。


「まぁ確かに誰が見てもかっこいいもんなぁ、しょうがないよなぁ」


羽瑠は無意識なのか、自分の方に手を伸ばして自分の髪に柔らかく触れて、夏野は目を細める。



「…別に、俺は羽瑠以外に興味ないから」


「…だから、なんで?」

訝るような羽瑠の口調。
その声がなんとも切ない思いをさせる。


「あんた、まだ、分かんないの?」



夏野は微かに苦笑をこぼして、羽瑠にそっと近付く。
羽瑠はそのまま身動きしない。


「…それがわざとで、好きだって言われたいだけなら何度でも言うけど」


夏野はそう答えて羽瑠は顔を赤くする。

そういうわけじゃ、と羽瑠が小さく言い訳するように言うが、声が小さくて消えていく。
そっと夏野が羽瑠の肩を押せば抵抗なく倒れていく。
背中に手を回して羽瑠の体をゆっくり横たえる。


夏野は羽瑠の体に跨って上から眺める。

ここまで顔を真っ赤にさせる羽瑠はあまり見たことがない。


「好きだよ」


夏野がそう言えば羽瑠は体を固くする。
夏野は羽瑠の頬に手を伸ばして優しく撫でる。
羽瑠は顔を赤くさせたまま、少し目を細める。


空はどこまでも青く雲は高く広がっている。
太陽が眩しく照り付ける。

ドキドキと胸の鼓動が鳴り響く。

夏野はそっと顔を近付けると羽瑠は何かの合図を受け取ったかのようにそっと瞼を閉じる。


促されるように夏野は羽瑠に唇を合わせる。

すぐに離されて目を合わせる。

夏野は呆れたように笑い、そのままごろりと羽瑠の隣に寝転ぶ。

そうして自然と手を繋いでいた。












「そ、それで、呼び出された人にはなんて答えたの?」


「好きな女がいるって」


「え、それまずくない?」


「別に本当につき合ってるとは思わないだろ」



それはそうかもしれないけど、と羽瑠は考え込むようにする。


「今まではなんて答えてたの」


「興味ないって言ってた」

 
「それが突然その答えになるの、まずい気がするんだけど…」

    
羽瑠はそうは言うが夏野には理解できなかった。

でもきっと、その相手探しに女の子たちは追われるのだろう。
まさか自分であるとは、思わないか、と羽瑠は無理やり自分を納得させた。
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