High-School DayS

□High-School DayS XI
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薄暗くなった頃に夏野と羽瑠は家を出た。

どこかぼんやりと俯く羽瑠は夏野の半歩後ろを歩いている。

羽瑠は後悔しているんじゃないかと夏野は微かに不安を覚える。


最後まではしていない。
これからどうなるのか夏野には分からない。



「羽瑠、大丈夫か?」


「あ、う、うん、大丈夫」


「…後悔、してるんじゃないのか?」


「えっ、そんなことは…」


羽瑠は首を振るが、どこか落ち着かなさそうにしている。

夏野には羽瑠が本当のところどう思っているのかは分からない。
分からないが、この関係が羽瑠の弱みにつけ込んだ狡いものだとしてもこれからも一緒にいたいと思ってしまう。


「羽瑠、
俺は1番でなくてもいいから、徹ちゃんの次で構わないから、一緒にいてくれないか。
ずっと大事にするから…」



「ありがと…なんかドキドキして落ち着かなくて…
私も夏野のこと1番に好きになりたいと思ってる。
これからも一緒にいるよ」


羽瑠は微かに照れるように笑って僅かに顔を赤くして眼を伏せる。

これが正解かどうか分からない。
いつか羽瑠は後悔するかもしれない。

それでも、まだこのまま未来が続いて欲しいと思う。


夏野はそっと羽瑠を抱き締める。
抱き締めずにはいられなかった。


「……好きだ……」



言葉にせずにはいられない。一瞬たりとも離れたくない。
それでも自分は子どもだから今はまだずっと一緒にいることはできない。

それが口惜しく思える。



「…とりあえずつき合うってことでいいんだな」


「うん、もちろん」


「…まぁでもとりあえず周りには知られない方がいいか…」


「えっなんで?」


「なんでってお前な…」


どうするのがいいだろう、と夏野は考えながら歩き出す。


「なんかやましいの?」



「いや、俺たちがつき合うと、絶対周りにいろいろ言われるぞ。
お前なんか毎日質問責めになるけど、大丈夫か?」


「た、確かに…」


羽瑠が徹を好きなのは知っている人は知っている。
きっとどうしたのかと質問責めにされる。
恵だって黙ってないだろう。



「…そういえば恵がヤバい…」


夏野は顔を顰めていた。
夏野が恵とつき合うことはないんだろうが、それでも恵は絶対に許さないだろうと羽瑠には思えた。


「まぁ正直そこはどうでもいいんだけどな」


「と、とりあえず隠しとこうか…対策は追々考えた方がいいね、たぶん…」


羽瑠は腕を組みながら考えるようにする。
徹のことは頭に浮かばないのだろうか。

そんなはずもないだろう。

夏野は複雑にも思うが、何も言えはしない。
言ってしまえばきっと羽瑠は思い悩むだろうし、きっとこうなったのは一時の気の迷いだと気が付いてしまう。

そして、これから本当につき合えたとして、周りに知られればきっといつか羽瑠は徹の想いに気がつくのではないか。



だからこの提案は自分のためなのだ、と夏野にも気が付いた。
本当はそんなつもりではなかった。

しかしどう考えても、羽瑠にとりあえずの期間だけでも徹を遠ざけさせたいのだとしか思えない。



それまでに自分が羽瑠にとっての1番になれればこれは真実になる。


ズキリと胸が痛む気がした。
1番大事な欲しい女を騙して、周りをも騙して手に入れる浅ましさ。


それでももう手放す気にはなれなくて。
どれだけ狡いと言われようとも夏野は羽瑠を離したくなかった。
どうしてここまで想いが溢れるのか分からない。
それでも好きで好きで堪らなかった。


この罪悪感はいつ晴れるのだろうか。


そして全てが知られれば幻滅されるかもしれない。
いつかは羽瑠も失ってしまうのかもしれない。

そのリスクが存在することに気が付いてしまっても、夏野にはもうどうするすべもなかった。


こうした帰り道でも手も握れない。
二人並んで歩くことすら憚れる。


こんなこといつまで続けられるか。


そんな風に思いながらも夏野は羽瑠の傍にいたいのだと思ってしまった。





「じゃあまた明日な」


「うん、ありがと」


そう言って夏野は羽瑠と別れる。
明日も会える。
それなのに離れたくないと思ってしまう。


名残惜しく思うのに羽瑠はそのまま自分の家の方に向かう。
夏野は羽瑠が家の中に入って見えなくなるまで目で追っていた。


いつまでもこんなこと続かないかもしれない。

1番大事な人を傷付けるのではないのか。
そのことにも気が付きながらその罪悪感を背負うためにどうすればいいのかと思い悩む。

最も辛くなる選択になってしまうかもしれない。


そう思いながら夏野も帰路についた。




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