High-School DayS
□High-School DayS X
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避けられているのだろうかと不安になる。
夏野。
大切だった。
こんなに気まずいのは嫌だった。
夏野が越して来て、何時の間にか仲良くなっていた。
仲がいいとは言い難いと思っていたが、それでも自分は夏野と話すのが好きだった。
夏野が外場村を嫌いでいても、この土地で夏野に会えたことが嬉しかった。
どんなに夏野が外場を嫌がっても、いずれ離れて行くのだとしても、それでも夏野がここに越して来てくれて、そして今もここにいてくれることがよかったとそう思っていた。
そして少しずつ馴染んでいく夏野を見るのが嬉しくて堪らなかった。
たくさん想い出を作ろうと思った。
夏野がいなくなっても、夏野が自分たちのことを決して忘れないように。
いつか遊びに来てくれれば、それがいいと思いながら。
自分の方は夏野を忘れるつもりなど微塵もなかったのだから。
友人として好きだったのだ。
本当に好きだった。
そのはずではあった。
大切にしたい繋がりだった。
まだ出会って一年かそこらでも、自分は心から大切に思っていた。
それでも、まさか夏野が自分をそういう意味でそんな風に思ってくれていたとは少しも思わなくて、あんな風に言われたこともどうしても信じられなくて、夏野に言われたときも、どうしてか全力で否定したくなった。
そんなことあるはずがないのだ、と。
それでも夏野の真剣な態度を見ると、嘘であるような気がしなくて、それはどこまでも本当のことであって、それをはぐらかすようなことも決してできなかった。
そんな傷付けるようなこと。
いつものように、あり得ない、と笑いながら一蹴することもできたのに。
それはできなかった。
夏野が本気だと、その言葉から、その態度から、その表情から全て感じられたからだ。
だから。
自分はあり得ないほどに動揺した。
そんなこと、あり得ないと思いながら、それは現実でしかなくて。
これからどうすればいいのかと思いながら、夏野の望み通り、学校には来ることにした。
授業も途中からでも何でもいいから受けることにした。
気が紛れる気がした。
一人でぼんやりと思考を繰り返しているよりも、そちらの方がマシには違いない。
それにこんなことは誰にも相談できないし、今まで悩んでいたことに対しても、そのことすらもう考えられなくなった。
頭に廻るのは夏野のことばかり。
考えると頬が熱くなってきて、ドキドキと胸が高鳴って、血の巡りに体が慣れないのか、頭まで痛くなってくる。
それに恵のことが脳裏に散らつく。
恵の想いが叶わなくとも、それでも恵は夏野に対して本気だ。
叶わないとは思ってしまっている時点で友達失格だとは思うが、それでも正直なところ夏野を落とせる女子なんてこんな田舎にはいないのだとどこか心の中で思っていたのも事実なのだ。
告白された手前、もうそんな風に言うのもどこか傲慢に思うが、それでも自分が一番信じられない。
女扱いされていると少しも思わなかった。
夏野の中で自分は徹ちゃんと変わらないそんな男友達のように思われているのではないかとすら考えていたのに。
結果だけ見てもそれは少しも当たってはいなかったのだ。
何故自分なのだろう。
自分でいいなら他の誰でも同じではないのかとすら思う。
夏野はモテる。
それを鬱陶しそうにすらしている。
どこかそれは似つかわしい。
夏野らしく思うから、夏野ならばむしろ女には興味がないと、そんな風に言うくらいの方がしっくり来てしまう。
それなのに、どうして自分なのだろう。
あんな風に、真剣に言われてしまうと、堪らない気持ちにさせられる。
夏野。
自分はどうすればいい。
夏野は今日も自分には近付かない。
生意気だけど本当は優しい。
気遣ってくれてはいるのかもしれない。
胸が痛む。
夏野と話したい。
どうやって近付けばいいのか分からない。
誰にも相談はできない。
告白された側が相談なんておかしい。
何故、何を相談するのか。
相手が夏野というだけで角が立つ。
溜め息が洩れる。
無視されたくない。
目も合わせてほしい。
同じ教室にいるのに。
なかったことにはできない。
夏野が気になって仕方ない。
それでも、近付けなかった。
あんな傷付いたような表情はさせたくない。
自分に何ができる。
確かに応えることはできないから。
徹ちゃん。
それでも想いが複雑に絡み合うのが分かった。
意図しないまま、どこかぐらついて、溶けていく。
夏野はどんな気持ちで、自分に。
応えてはもらえないと、そんな風に言って、確かに自分は応えられなくて。
このままではいたくない。
それでもどうしていいのか分からなかった。
傷付けたくない。
どうしてもそんな風に思った。
この日もどうしても夏野には近付けなくて、やきもきしていた。
挨拶もまともにできない。
声を掛けてもどこか素っ気なくて、泣きそうになる。
夏野は自分を避けたいのか。
そんな風にすら思う。
以前のようになりたいのに。
それでもそうはなれないと自分でも分かっている。
どうしていいのか分からない。
羽瑠は一人村に帰り着いて、武藤家に訪れていた。
小さい頃からずっと武藤家が落ち着く場所だった。
今は数日前とは違って一人でいたくない。
一人でいると考え過ぎてしまう。
夏野のことばかり。
頭に浮かんでは思考が乱される。
武藤家に行って、徹ちゃんの部屋に居座る。
当然徹ちゃんはまだ帰っていない。
自分一人、ホームルームが終わるとすぐ早くに学校を出てきてしまったからだ。
居た堪れなかった。
誰にも相談できない。
もちろん徹ちゃんにも、葵にも、保にも。
もとより相談する気などないが、それでも胸の当たりが重い。
床に座り込んで、ベッドに頭を凭せ掛る。
あの日、徹ちゃんの部屋で眠ってしまったから怒られた。
それを唐突に思い出していた。
その理由が今になって判然として理解して赤面した。
自分が好きだから。
だから夏野は自分を責めたのかと思うと、何とも言えない気分になった。
男の部屋で眠ってはならない。
自分は女だから。
それに自分は徹ちゃんのただの友達でしかない。
だから告白しろと言ったのだろう。
あわよくば上手くいけば、自分が徹ちゃんの部屋にいても、それは不自然ではないから。
夏野にとっては、そういうことなのだろう。
夏野は自分を切り捨てるために今のタイミングで言うことにしたのだろうか。
寂しくて堪らない。
早く誰か帰って来てほしい。
もしかして夏野は徹ちゃんにも会わなくなるのだろうか。
自分がいるとなれば武藤家には来なくなるかもしれない。
そんなのは、嫌だった。
ぐるぐると思考を繰り返していると、泣けてきそうだった。
まだ誰か帰って来ないかと、ぼんやりしているときに、漸く階下で徹ちゃんの声がして、ほっと息を吐いて、顔を上げた。
早く早くと思っていると、階段を上がるだけの距離すら長く感じられた。
扉が開いて、徹ちゃんが顔を出す。
夏野がいないことに、溜め息を吐いていた。
二人は親友なのに。
自分のせいで会い辛くなったりしないだろうか。
それともそんなものは単なる杞憂だろうか。
自意識過剰すぎるかもしれない、と羽瑠は深く息を吐く。
「おかえり、徹ちゃん」
「ただいま」
少し驚いたようにしていたが、徹ちゃんはそのまま部屋に入ってきて、鞄を置く。