High-School DayS

□High-School DayS \
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羽瑠は一人屋上に取り残されていた。

夏野はいなくなった。




恐らく、とんでもなことを言われて、その後抱き締められた。

そしてひとしきり自分を抱き締めた後、夏野はそのまま風か何かのように消えた。




先程からずっと動揺しっぱなしだった。


頭が上手く働かないまま。



夏野は本当にとんでもないことを言って、していったのではないだろうか。


夢の中ではないのか。



まさか、奴は何と言った。


確かに自分に何を言った。


あり得ないことが起こった。


天変地異でも起こったように、頭の中がぐらついて、視界が歪む。


まともに辺りが見えなくなるくらいに動揺しているのが分かった。


頭が真っ白というのは今のような状況を言うのだろう。


自分は夏野にどのような応対をしたのかも思い出せない。


何を言えた。
何か、取り繕えたのか。


この働かない頭で、何を。



今まで別のことで悩んでいたはずなのに、それが嘘のように吹き飛んでいた。


奴は本当に自分に何をした。


身体に仄かに残る熱は気のせいではないはずだ。


まだ暖かい。


ドキドキと胸が鼓動を打つ。
それが煩くて堪らない。


それを致した本人はこの場にはいないが、それでもあり得ない。


頬に手を当てれば、熱くて堪らなくなる。


こんな直射日光の当たる場所にはもういられなくて、その場から離れるしかなかった。


好きだ、なんて。


そして抱き締められて。


そのことでおかしくなるくらいに動揺する。


夢ではないのか。


それでもこれはどこまでも現実でしかなかった。














夏野は一人教室に戻り、どこか感情を持て余していた。


言えてよかった。
その想いと。


手には入らない切なさと。


動揺していた、愛おしい羽瑠。


感情はまだ昂ぶっていた。


脈も早い。
身体も熱い。


まだこの腕にリアルに残る感触を確かに実感する。


暖かさと、柔らかさと、確かな存在感。


この腕に抱けたことが、それがやはり嬉しかった。


それでももうこれでお仕舞いだと思った。


分かっていて告白した。


羽瑠が自分を避けようとも仕方ない。


徹との件だけで学校に来なくなってしまうほどに繊細だとは思わなかったから。


もしかしたら、避けるなり、なかったことにするなりしたがるかもしれない。


それでもいいと確かに言い聞かせた。


覚悟の上だった。



もう誤魔化せないと思ったから。

抱えてはいられない。


だからこれでよかったのだ。


どこか満足はしている。
満たされている。


手に入らない寂しさや、切なさは、取り敢えず置いておく。


これは時間が解決してくれるはずだから。


少なくとも、大学に行けば、忘れてしまう。

忘れられる。


そう思った。






そのまま教室での時間は刻々と過ぎていく。


明日羽瑠は約束通り、学校へ来るだろうか。


教室などでは本当に羽瑠の扱いが怪しくなっていた。


それがどこかおかしく思う。
羽瑠はいなくてはならない存在だ。


一年の間は少なくとも同じクラスなのだ。


今となっては羽瑠にとって自分が同じ教室にいることは不愉快なことでしかないのだろうが。


自分がこのクラスにいては邪魔かもしれないとは思っていた。


羽瑠にとっては気まずいには気まずいだろうから。

気にするなと言っても同じだろう。
余計に気を遣わせるかもしれない。


羽瑠が穏やかに学校生活を過ごすには、やはり自分は邪魔にしかならないだろう。


別のクラスならよかったと、そう思っていた。


羽瑠を困らせたくない。


羽瑠は当然のようにクラスには帰って来なくて、また授業が始まってしまう。


今日までは構わないが、明日からは引き摺ってでも連れていく。

そんなことができるとも思わないが。


それでも来て欲しい。
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