High-School DayS

□High-School DayS Z
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朝、高校へ行くためのバス停に、羽瑠はどうしてかその場にいなかった。

羽瑠がいないと朝から静かすぎる。
本当に、五月蠅い奴だから、いないと違和感だらけで、却って落ち着かない。
皆がそんなような有様だった。


その場にいるべき存在で、今いないのは羽瑠だけのようだった。
風邪を引いた可能性もあるが、しかし。


夏野や、武藤の面々は、羽瑠の不在を気にしたようにはしていた。


バスはもうすぐでやって来るはずだ。
羽瑠は遅刻になる。
ギリギリというのはよくあることだが、来ないことは珍しいような気がする。

羽瑠も人なのだから、風邪くらいは引くとは思うがそれでも気になる。


夏野は、一つ息を吐きながら、仕方なく徹に向き直っていた。


「なぁ、徹ちゃん」


徹はどこか気まずそうにはしていたが、夏野を無視することなどなく、夏野に目を真っ直ぐに向けていた。

徹は羽瑠がいないことを心底心配していたようだった。
どんなことになろうとも、徹が自分や他の誰かを無視などする訳がないか、と夏野は息を吐く。


今は夏野の方も徹のことを気にはしていられなかった。
先日の勝手な一件をなかったことにはできないが、今はそれより羽瑠のことが気に掛かる。

今いないのは、自分のせいかもしれないから。


「羽瑠は?」


「…いや、俺も分からない、でも、この前、夏野お前…なんか」


徹はどこか言い辛そうにはしていたが、夏野には意図が分かって、すぐさま答える。


「……勝手に悪かったよ。ただの八つ当たりだったな。
…でも今は羽瑠が気になる」


徹に対して、謝罪になっているとは自分でも思えないが、それでも徹がそれを気にした様子はなかった。

彼らしいとは思う。


「それで、あの後、どうしたんだ」


むしろ徹は羽瑠が心配で仕方ないといった様子で、夏野に問う。


「気にするな」


夏野は不満そうにぴしゃりとそう言って、顔を背けていた。

一々説明する気にはなれない。
もう本当にバスが来てしまう。

葵がどこか心配そうに、夏野と徹をちらと見てから、窺うようにして、口を開く。


「何かあったの」


「…別になんでも。気にするな」


徹が誤魔化すように、即座に答えて、夏野は顔を顰めながら、一瞬考えるようにするが、そのまま身を翻していた。


「なに、ナツ、どこ行くの。もうバス来るってば」


「別に。あんたら気にしないで先に行ってて」


「えっ、ちょっと!ナツ!」


葵の声が背後から響くが、それを気にした風もなく、外場村へ向かっていく。
羽瑠の様子が気になる。

もし家にいるなら、それはそれで構わないが、それでも気になる。
居場所だけは、把握しておきたい。

今どこにいるのか。
どうしているのか。

別に、自分を好きになってくれなくても、構わなかった。
仕方ないことだ。

自分が好きだから、それだけでいい。

それでも、羽瑠のことが気になる。

ただそれだけだった。

清水の自分に対する気遣わし気な視線も気になる。

徹が羽瑠の元へ行かないなら、自分が行く。

羽瑠には徹の方がいいのだろうが、それでも徹自身がそう決断しないのなら、自分が。


このままでは確実に自分も遅刻になるが、そんなものは構わない。


そこまでの優等生であったこともない。
だから、それでよかったが、徹にはどこか腹が立ってしまった。

さっさと決断しないことに、苛立っていた。

両想いなのに。
羨ましいほどに、それはそうだったから。


背後に音を立て排気ガスを洩らすバスの気配を感じながら、夏野は離れて行った。
視線をいくつも感じたが、もう気にすることはなかった。



















「ねぇ、兄貴、ナツ」


「たぶん羽瑠を迎えに行ったんだろ」


ぶっきらぼうにそう言いながら、徹はやって来たバスに乗り込もうとする。

葵は何か言いたげにしていたが、当然のようにそれは無視をしていた。

気にはなる。
気になって仕方ない。

夏野と、羽瑠の関係。
夏野は羽瑠に対して、本気だ。
そう見える。


自分の想いを知っているはずだ。
それでもきっと後に引くつもりはないのだろう。

それを思うと苦悩が募る。
葵も自分や、夏野の想いは知っているだろうから、気にして当然だ。

夏野が言い出す前から、自分が行こうかと、悩んでいたのに、結局は夏野に、先を越されてしまった。

そうなれば、もう自分が行くことはできない。

それにあの後、何があったのかは自分には分からないから。


夏野の、嫉妬。
そんなのは、よく分かっている。


だから。
その後、羽瑠に対してどうしたのか、考えるだけでも嫌だった。

今、羽瑠がいないことを考えても、二人の間に何かあったのでは、と思う。


あのとき、何か。

徹は頭を振って、過ぎたことは仕方がない、と思い込む。


遠ざかっていく村をちらと窓から振り返りながら、目を細めた。


羽瑠は夏野をどう思うのだろう。
もし、家にいたなら、夏野に会う。

自分を心配して来てくれた、夏野をどう思うのだろう。


もし、両想いなら。
唇を咬み締めた。


夏野が村から、羽瑠を連れ去って行くイメージが浮かんで、それをすぐさま頭から振り払っていた。


羽瑠が村から離れれば、一体どうなってしまうのだろう。


もう、幼馴染みなんていう関係に安堵はできない。


逢えなくなる距離が深くなっていく。

それを思うと辛くなってしまって、一つ憂鬱そうな溜め息を吐いていた。
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