Toshio's ROOM

□first night
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そのままベッドに縺れ込めば、またキスをされて服に手を掛けられて手早く脱がされて押し倒される。

敏夫も服をさっさと脱ぎ捨てて朱音に覆い被さって朱音の手首を握ってベッドに押さえ付ける。

朱音には何となく雑にされるような気がしていた。

別にそんなに期待はしない。それで構わないと思う。

そう思って誘ったわけじゃない。


そう思っていたのに、敏夫の触れ方は焦ったくて柔らかな触れ方で朱音は堪らず甘く溜息を漏らしてしまう。

器用で繊細な動きだ。


滑らされる指やキスの仕方で伝わるものがある。


この人はたぶんこうすることに慣れている、と朱音は漸く気が付いて、上に覆い被さる敏夫を熱を持った瞳で見つめる。

気紛れで、ほんの思い付きだったはずだ。


たぶんお酒のせいもある。


それでもどうしようもないくらいにこの人に感じさせられているのがよく分かって、恥ずかしいのに朱音は声を漏らすしかなかった。



こんなはずではなかったのに。


行為自体に夢中にさせられていくのが分かった。


思わず朱音は敏夫の背に手を回して抱き付いていた。


そっと先生、と名前を呼べば、頭を撫でられて、耳元で敏夫の息遣いが聞こえる。


甘くて切ないときめきを感じていた。




貫かれる瞬間も快楽に甘く喘ぐしかなく、その合間にキスをして舌を絡ませれば頭の中が痺れていくようだった。

こんなことは初めてだ。
こんなにも翻弄されてしまうのは。

酔っているからなのか、こんな風なシチュエーションは初めてだからなのだろうか。

気持ち良くて堪らなくて絶頂を迎える。

初めての体験だった。








行為が終われば、先生はそのまま眠っていた。

朱音は余韻に浸りながら、まだ胸はドキドキと煩くて朱音も隣で横になって敏夫の顔を見つめていた。


こうなってしまったのは酔っていたからだ。

そんな風に思いながら朱音は敏夫の体を撫でる。


不思議な感覚を覚える。

まさかこんな風になるなどとは思わなかった。

まだ先ほどの快感を忘れられず、自分の唇に触れていた。そのままギュッと目を瞑る。

自分は一体どうなってしまったのだろう。



村に来た頃は出来るだけ楽に働けて、村の地域医療に触れてみたいと思っただけで。

こんな居場所を作るつもりだったわけではない。

今は恋人はいない。
寂しいと言えば寂しかった。
出会いもない。

だからこんなことに。

そして女っ気がなかったから、思わず誘ってしまった。

でもこの人は想像以上に慣れていた。
こうすることに慣れているのか、どうかは分からないが。

朱音もまだ完全に酔いは覚めておらずに隣で敏夫の息遣いを感じながら目を瞑った。


朝になるまでにはたぶん起こしたほうがいいんだろう。

あと数時間だけ。


そう思って微睡に沈んでいった。











まだ陽も登らない頃に朱音は目を覚まして体を起こす。

隣の人はまだ眠っている。

まだ外は暗い。
朱音は隣で眠る人の体に触れて優しく揺する。


「先生」


そっと囁くようにそう言えば、敏夫は体を僅かに動かして呻くような声を漏らす。

まだ酒が残っているのかもしれない、と朱音は思って水を汲んでベッドサイドに戻る。


「先生、お水どうぞ」


適当に羽織を着てそう言った。

敏夫はもぞもぞと体を動かして目を薄く開いて自分を見上げる。

なんとなく気恥ずかしいものだな、と思って朱音は自然に目を逸らしていた。


「夜も明けちゃいますから、その前に出た方がいいのかなぁ、と思って。
体辛いですよね?ごめんなさい、飲ませすぎて」


今日って仕事ですよね、と朱音は呟くように言った。
申し訳ないとは思うがもう仕方ない。
止められなかったのだから。


「夢じゃなかったんだな」


「え?」


「…いや、悪い」


夢だったとしたら一体どんな夢を見ているんだ、と思って朱音は小さく笑っていた。
敏夫は微かに顔を顰める。


「えーと、覚えてますよね?」


「…ああ、しかし…」


「あまりにも酔っていらっしゃったので…」


朱音は苦笑を溢す。
ここまで酔っていなければこうはならなかったかもしれないと思うと良かったと言えるのかどうか。

敏夫は視線を逸らしながら言う。



「君は、いつもこんな風に男を誘うのか」


「…え?そんなまさか」


朱音はそう言って笑う。
こんなことは本当に初めてだった。
自分からこうして態々誘ったことはない。

いつもなら面倒だから誰かを泥酔するまでそもそも飲ませはしない。

ただただ楽しかったのだ。昨日の夜は。本当に。


そうは言っても敏夫は納得したような顔はしていなかったが。







敏夫がいそいそと身支度をしているときは朱音は思わず目を逸らす。

その体を見ていると思い出してしまって切なさに体が熱くなる。

そしてそのまま敏夫は玄関まで歩いて、朱音もそのまま見送るために着いていく。





「昨日はご馳走様でした、本当に楽しかったです。
じゃあ、また」


朱音は深々と頭を下げる。
敏夫は少しバツが悪そうにしながら玄関を開けてそのまま帰っていった。
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