徒言

□幻影楼U
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 朱い正絹の腰紐が、細い手首を戒める。
 柔らかい生地は、薄い名無しさんの皮膚に傷を付ける事も、痕を残す事もなく、やんわりと締め上げる。
 頭上で一つに纏められた手首は牢格子に繋がれ、名無しさんは固い床の上に、白襦袢姿で横たわっていた。

 紐を解いてはだけた襦袢は、辛うじて両袖を通しているだけで、名無しさんの姿は全裸に等しい。
 露わにされた白い肌には、幾枚もの朱い花弁が散っていた。
 その肌に、更に二枚、三枚と花弁が落ちる。
「ふ……く……っ」
 名無しさんは苦しげな声を上げて、びくりと躰を震わせた。

「いい色に染まって来ましたね。とても綺麗ですよ」
 黒い爪を持つ指が、その花弁を辿りながらツッと撫でた。


 此処は幻影楼の最奥にある格子牢。
 横たわる名無しさんを嗜虐的に見降ろすのは、ここの主の腹心である背蓮茶闇(セバスチャン)。
 その手には、朱色の蝋燭が握られていた。
 それが名無しさんの上で傾けられる度、絹の肌を朱に染めてゆく。
「あ……あぁっ……」
 引きつるような痛みと熱に、名無しさんは身を捩らせた。


 此処に捕らわれてから、毎夜繰り返される『食事』と言う名の陵辱。
 逃げたり抵抗したりすれば、もっと非道い目に遭う事を、名無しさんは嫌という程身をもって体験して来た。
 その気になれば簡単に外せてしまう手首の拘束も、其の恐怖から外せずにいる。
 今の名無しさんに出来るのは、黙ってこの男の暴力を受け入れる事だけだった。

「そろそろ、此方にも欲しいのではありませんか?」
 背蓮茶闇の手が、名無しさんの下腹部で震える物に辿り着く。
 名無しさんは「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。

 この様な状況であるにも関わらず、名無しさんの其れは熱を持ち、硬度を保っている。
 するりと其れを撫でた背蓮茶闇は、しかし眉を寄せ、更に奥の秘孔へと手を伸ばした。
「まだ快感が足りない様ですね。もっと肉欲で満たして御覧なさい」
「あっ…、ああぁ……」
 背蓮茶闇が、名無しさんの後孔にくわえ込ませたままの張型を、奥深くへと押し込む。
 其れだけでなく、交合を思わせる動きで、抜き差しを繰り返した。
「い……やぁ、あっ……ああっ」
 温もりを持たない疑似体に犯されながらも、名無しさんの躰は熱を上げ、喜悦に啼く。
 爪先がしなり、踵が床を滑った。

 其れでも、膝の裏に木刀を添えて両端で縛られた名無しさんの大腿は、閉じることさえ叶わない。
 その木刀を持ち上げられれば、秘部を全てさらけ出した、あられもない姿にされてしまう。
 名無しさんは堪らずに顔を背けた。
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