徒言
□クリスマスイヴ・イヴ
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赤や金色のボール。小さな靴下。オモチャのステッキ。
味気なかったモミの木がみるみる華やかに飾られてゆく。
いつもながらセバスチャンのセンスの良さに感心しつつ眺めていると、丁寧に包んだ布の中から取り出された陶器の人形が、モミの木の天辺に取り付けられた。
「天使のオーナメントですか?」
「ええ、翼を広げたこのフォームが美しいでしょう? 先日坊ちゃんのお供でロンドンへ出かけた際に見かけて、一目惚れをして購入しました」
確かに、胸の前で手を組み、うっすらと笑みを浮かべた白い天使の像は美しい。
燭台で揺れるキャンドルの炎を反射させて、キラキラと小さな星屑を纏っているかのようだ。
しかし……。
「嬉しそうに天使の人形を飾る悪魔なんて、見た事がありません」
「今見ているではないですか」
子供みたいな皮肉を返してセバスチャンがクスクスと笑う。
名無しさんは呆れながら、もう一度煌めく天使の像を見上げた。
クリスマスイヴの明日はパーティーが開かれ、この広間も賑やかになるのだろう。
反対に、セバスチャンが作業をする小さな物音さえ響く今夜の静けさは、二人きりの空間に閉じ込められているような気分になる。
薄明りに浮かび上がるクリスマスツリーは幻想的で、そしてその隣のセバスチャンは天使のオーナメントなどよりずっと……美しい。
知らず見惚れていた自分に気付いて、名無しさんは慌てて首を振った。
名無しさんの方はもう今日の仕事が終わったのだから先に部屋へ戻っていてもいいのだが、見ているうちに戻るタイミングを逃してしまい、こうして立ったまま何となく待っている。
どうせこの後のセバスチャンは名無しさんの部屋へとやって来る。
先に帰って落ち着かない時間を過ごすより、一緒に戻った方が気まずさがなくていい。
せめて邪魔にならない程度に手伝おうと床に散らばるオーナメントの空箱に手を伸ばした時、不意に首筋を吐息が掠めた。