碧い迷宮

□迷路
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夜が明けるのを待って陛下に報告に行き、その足でファントムハイヴ邸に戻って来た。
今回は夜の行動が多かったせいで、随分と疲れた。
ただ、気分が重いのは疲労のせいだけではないけれど…。

名無しさんは脱いだコートを、クローゼットに掛けた。

ファントムハイヴ邸の名無しさんの自室。
皆が寝静まった後の、いつもの二人だけの時間。

空気が揺らいで、セバスチャンが背後から近づいてきたのが分かった。

「今回はすみませんでした」

背中から声がかかる。

「謝るのは私の方です。あなたに剣を向けてしまいました」

「いえ、私が無体をしなければ、あなたは簡単に操られたりはしなかったはずです」

背後から回って来た腕が、ゆっくりと名無しさんを抱きしめた。

「あなたの瞳が碧いのを知った時は、胆が冷えましたよ」

優しく耳に落ちてくる声が、今は苦しい。
消化しきれない想いを抱えたまま、彼の腕に手を添えた。

「体はもう何ともありませんか、名無しさん?」

「はい」

振り返ると唇が重ねられた。
入ってくる舌に応え、彼の背に腕を回す。
ツンと目頭が熱くなった。

優しい抱擁、熱い口づけ。
これらが自分の抱くものと同じ、愛情から来るものであったら……。

『悪魔の愛は、人間や天使とは違う』

彼は以前、そう言っていた。
人間のように「愛おしい」などと言う感情を、誰かに抱いたりしないと。
悪魔の愛とは、相手の全てを我が物にする事。
魂、肉体、命も全て。
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