銀色の罪

□暗雲
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夜のファントムハイヴ邸の調理室で、名無しさんはその日の後片付けをしていた。
食器を拭いて棚に戻し、調理台の水滴を拭き取る。
「名無しさん、明日の仕込みは終わったぜ」
大体の作業が終わったとき、奥からバルドが声を掛けてきた。

「こちらも終わりました。もう休みましょうか」
「おう」と返事をしながら煙草に火をつけ、バルドは椅子に腰をかけた。

「ところで、坊ちゃん達はまだ帰らねーのか?」
「ええ、あと二〜三日遅れると、今日は連絡がありました」
「珍しく手こずってるな」
「そうですね…」


シエルとセバスチャンは、四日前からロンドンに出かけていた。
依頼された“仕事”の仕上げに行ったらしい。

「少し思惑が外されまして、帰るのが遅れます。そちらも気を付けて下さい」
とタウンハウスのセバスチャンから電話があったのが、今日の夕方。
人身売買の組織を追うと言っていたが、上手く押えられなかったのかも知れない。

本来はヴァレットである自分も同行するものなのだが…。

「有事の際は多数の人間が死にますので、あなたはここで待っていて下さい」
そうセバスチャンに言われたのだ。
人間が死ぬのと、私と、何の関係があるのか?
もう私が魂を天に運ぶこともないと言うのに。

「おーい、オレはもう行くからな」
一服を終えたらしいバルドが声を掛けた。
「ああ、はい、私も行きます」
名無しさんもバルドの後を追って調理場を出た。
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