徒言

□『アップルページU』
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 仄かだった薔薇の香りが体温で温まり、その密度を増す。
 薄暗闇の中でキャンドルの炎が揺れ、てらてらとした肌にオレンジ色の星屑をまぶした。

 皆が寝静まった真夜中のバスルーム。
 秘密めいた空間の、そのしっとりとした空気を震わせているのは、途切れ途切れの喘ぎ声と、粘着質の水音。

 そして……恋人の耳元だけに落とされる、甘い睦言。

「色付いた肌に纏う薔薇の香りと甘い蜜。とても綺麗です」
 黒い爪を持つ指が、トロリとした液体を救い、熱っぽい肌に塗り付けて行く。
「ほら……ここも物欲しげに震えて」
「や……言わ……ないで」

 くすくすと笑う声がした。
「あなたがこんなに興奮しているのですよ……」
 吐息混じりの低音の声が鼓膜を震わせる。

 下肢を滑る指が、熱を持つ起立に辿り着いた。
 長い指が絡まり、それを厭らしい手付きで扱く。
 たちまち高い矯正が上がった。

「あぁ……んっ……は、ぁ……」
 全身にローションを絡ませ、あらぬ声を上げ続けているのは、神聖な存在であるはずの天使の名無しさん。
 向かい合って座り、バスタブの縁に背を預けているのは悪魔のセバスチャンだった。

 名無しさんはそのセバスチャンの体をまたぎ、両脚をバスタブの外へと投げ出している。
 更にまたぐだけでは飽き足らず、彼の欲望を深々と咥えこんでいた。

 ズルズルと滑るローションのせいで、安定しない身体が勝手に動く。
 その上、今のように卑猥な悪戯をされれば、まるで自ら快楽を求めて腰を捩っているように体が揺れた。
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