徒言
□『アップルページV』-恋愛診断-
1ページ/8ページ
少し夜が更けた頃、名無しさんの部屋へと足を踏み入れたセバスチャンは瞠目した。
脱ぎ散らかされた服や、開けっ放しのクローゼット。
ノックの音に返事がなかったため勝手に入ったのだが、一瞬部屋を間違えたのかと思った。
名無しさん本人はと言うと、ベッドの上でシーツもかぶらずにうつ伏せて眠っている。
捲れ上がった夜着の裾から覗く白い太腿が艶めかしい。
何者かに乱暴された跡とも見える光景に、しかしこの邸内でそんな事があれば真っ先に気付くはずのセバスチャンは、これは名無しさん自身がやらかした事なのだと納得せざるを得なかった。
床の衣服を拾い上げながらセバスチャンは考える。
いつもこの部屋を訪れる時は、名無しさんは机で本を読んでいるか、少し遅くなればベッドで休んでいる。
こんな風にだらしのない姿は見た事がなかった。
しかしもしかしたらそれは名無しさんの一面でしかなく、一人の時にはこんな面もあったのかも知れない。
セバスチャンはもう立て続けに五晩も通っていたため、今晩は来ないと踏んだ名無しさんが素の自分を曝け出した姿なのかも知れなかった。
ベッドの上には読みかけらしい雑誌まで広げられている。
(……全く)
名無しさんらしくない姿にいささか辟易しながら、セバスチャンはその雑誌を片付けようとした。
そして広げられたページの文字が目に留まる。
眩暈がしそうなその文体には見覚えがある。
『彼の心が丸見え! 秘密のドキドキ恋愛チャート☆』
こんなタイトルの記事を掲載する雑誌など表紙を見なくても分かる、ちまたで評判の婦人誌『アップルページ』だ。
そういえば今日は劉が来ていた事を思い出しながら、セバスチャンは名無しさんが読んでいたらしいその記事が気になって目を通した。