Clap



拍手ありがとうございます!!
蔵幽拍手連載あります。





【4】記憶と罪


自分についての説明を受けた。
元は千年以上を生きた妖狐であること、今は南野秀一という人間として生きていること、他に何人か仲間がいて、初めは敵であった幽助ともすっかり気の置けない仲になったこと、…
人間界のこと、魔界のこと、霊界のこと。

幽助の口で語られる自分の歴史。
それを頷きながら聞いているという状況に、蔵馬はくすぐったいものを感じた。

「ちゃんと聞いてるのか?」
「もちろん」

楽しく聞かせてもらっているよと冗談じみて言えば、ちゃんと聞けよと軽く頭を小突かれた。

楽しいのは本当だが、聞いていなかったわけではない。
自分が人間ではないということは苦しく感じたが、それ以外の事実はすんなりと受け入れることができた。その上幽助も似た存在だと言うのならば、拒否したり落胆する必要などどこにあるのか。


「驚かないんだな」
「驚いたほうがよかった?」
「いや、蔵馬らしい」

説明が楽で助かるよと笑う幽助。
可愛いなあと思ってしまった。途端、反射運動のように彼の頭をすくように撫でていた。
少し馴れ馴れしすぎただろうか?幽助は目を見開いて蔵馬を凝視していた。

「忘れる前の俺はこんなことしなかったのかな?」
「……え、いや。…ああ!何でか知んねーけどよく…やってた、かな」
「そう。…嫌じゃない?」
「…っ全然!ほら、俺ら仲良かったし!」
「そっか…じゃあ遠慮なく」
「おう」

触れられるのをぎゅっと目を瞑って待っている姿は、子犬か子猫のようにも見えた。



無邪気な笑顔で見つめてくる蔵馬を目の前にして、悪どい自分が余計な助言をしてくれやがった。

蔵馬は何も知らない
何一つ覚えていない
今の蔵馬には俺しかいない
俺しか知らないんだ

だから例え必要以上の触れ合いをしていなかったとしても、蔵馬がそれを知る術は俺から聞くことしかないんだ────

「くすっ…幽助すごく可愛い」
「…目ェおかしいんじゃねーの」

頬や耳が熱い。きっと分かりやすいくらい真っ赤になってしまっている。
嬉しい。照れ臭い。後ろめたい。…悲しい。
頭を撫でられながら、俺は貫かれるような胸の痛みを感じていた。

泣いてしまいたくなった。


「……幽助?」
「蔵馬、蔵馬、」

ぴたりと止まった手を両手で掴んで、固くぎゅっと握りしめた。何度も何度も名前を呼んで、必死で涙を飲み込んだ。
蔵馬は訝しげに俺を伺っているだけで、何も言わなかった。
突然しがみつかれて、ウザい奴だって思われたら嫌だなとか、何も聞かないでいてくれて助かるとか、迷惑ばっかりかけて申し訳ないなとか。
思っていても離れられず離れたくなかった。

それでも、いつまでもこのままでいるのは不自然すぎる。
おかしいことなのだと無理矢理自分を納得させて、声が震えないようにゆっくりと話を振った。

「蔵馬はどうして…俺の話を信じるんだ?」
「え…?」
「だってそうだろう?今のお前にとって、俺は見知らぬ他人だぞ?作り話をしてお前をからかっているのかもしれない、騙してよからぬことをしようとしているのかもしれない。0じゃないだろう?」
「それはそうだけど…」
「なぜ信じられるんだ?」

話しながらぎこちなく手を離した。

温もりを失った手のひらがとても寂しく思え、ぎゅっと握りしめて誤魔化した。
否、誤魔化そうとしていたから…ふわり、と握った拳にあたたかな手のひらが重ねられたのには驚いた。

「なぜ信じられるか…愚問だよ、幽助」
「くら…」
「俺の説明をしてくれた、優しい気遣いができる、俺を案じてくれる君だから、だよ」
「んなの…演技かも、しれねぇだろ…」
「そうかもね。けれどね幽助、俺は君がそんな汚ない嘘をつくなんて到底思えないんだ」

蔵馬は俺の手を取って、指の背に恭しくキスをした。
びっくりするやら恥ずかしいやらで俺はぱくぱくと金魚みたいに口を開閉するしかない。
涙すら簡単にひっこんでしまった俺を見て、蔵馬は優しく笑った。

「ほらね。俺にキスされて可愛い顔で呆けちゃってさ?大体騙してる人間は謝りながら泣かないし、あんな切なげに名前を呼ばないよ」
「く…蔵馬」
「きっとね、俺は君が信じられる人だと分かってるんだと思うんだ……心ってゆうか、魂に刻んじゃってるんだよ。多分ね」

どこの王子様だよ、キザなことばっか言いやがって。魂だって?馬鹿馬鹿しい、あり得ないっつうの!

「ばーか、俺のことなんか刻んでないで、もっと大事なこと刻み付けとけよ…」

嬉しくて切なくて、ああ…やっぱり好きだなあって思った。
と同時に、もう好きだと言えなくなってしまった自分の罪を呪った。

「『君より大事なことなんてないよ』」

いつかと同じ言葉がまた、俺の鼓膜と心を震わせた。ギシリと心臓が鳴った。














コメントはこちらへ
memoにてお返事致します!




[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ