長篇

□2
1ページ/1ページ






独りきりの空間に堪えられなくて、無意識に求めた誰かの熱。不自然に破られた穏やかな時間は、今の2人にはむしろ好都合であるようだ。

「幽助、ここは少し寒い。寝るなら俺のベッドを使って」

瞼を半分ほど下ろした幽助を揺すって、蔵馬は控えめに声をかけた。折角温まった身体を冷やしては意味がないと思ったのと、まどろみを邪魔したくないという気持ちから、もしこのまま幽助が寝てしまっても抱えて連れていこうと決めていた。

「やだ」
「やだって…」
「だってここあったけぇんだもん」

舌ったらずの声でだだをこね、ぎゅうぎゅうと蔵馬の腕にしがみついた。

「ベッドは寒い」

どうやら安眠を邪魔されて拗ねているらしい。蔵馬はため息をついて、どうしたものかと考えた。

「でもねぇ幽助、俺は君に風邪を引かせたくないんですよ」

ぽんぽんと頭を撫でて分かってくださいと呟いた。幽助は小さな唸り声をもらしてぽつりと言った。

「蔵馬も一緒に寝るなら、行っても…いいかな」

とんでもない妥協案だと苦笑した。そこまでして体温が恋しいのかそれともまだ他に理由があるのかは分からないが、こんなところで寝られるよりもよっぽどマシだと結論づけた。

「分かりました、じゃあ行きましょう。歩けますか?」
「…歩けねぇっつったら?ここで寝ていいの?」

まだ言うかこの人は。
蔵馬はにっこりと笑って、姫抱きで強制連行するまでですよと全く動じない。
ちぇっと唇を尖らせる幼い仕草になんとも言えない気持ちになるが、ここで甘やかしてしまっては間違いなく風邪を引かせてしまう。


「じゃあ歩けない、連れてって」

…唖然。
まさかそっちを請われるとは予想だにしなかっただけに、蔵馬はたっぷり30秒フリーズした。

「…マジですか」
「大マジ」

にまりと笑った女王様が、急かすように両手を広げた。子ども返りを起こしているからだとか、今日は雨が降っているからだとか、気のおけない友人と2人きりだからだとか。そんなことを幽助の行動と蔵馬自身の感情の揺れの言い訳にして、蔵馬は様々な疑問や引っ掛かりを飲み込んだ。
幽助の瞳に普段とは違った色を見つけても、気のせいだと見ないフリをした。
そして毛布でくるまれた身体を抱き上げると、ちゃんと掴まっていてくださいねと声をかけて部屋を目指した。

「やっぱここがいい。ここが一番あったけぇ」

か細い呟きすら蔵馬の耳が拾い上げてしまうほど、家の中はしんと静かだった。器用に戸をあけて室内に入った。予想以上の肌寒さに思わず身震いした。
毛布ごしでもその冷気が感じられたのだろう、幽助は眉根を寄せた。

「こっちのが風邪引きそうだな…」

尤もな意見に返す言葉もない。とりあえず暖房をつけてベッドに腰を下ろした。幽助を抱きしめたまま。

「下ろさねぇの?」
「今下ろすとモロに冷たい布団に座ることになりますよ。床も椅子も似たようなものですから、今の君にはオススメしかねます」

もう少し部屋が暖かくなったら離してあげますよと笑う蔵馬。幽助はそんな蔵馬をじっと見つめ、自分からその腕を離れた。
真正面から蔵馬を覗きこみ「眠い」と一言呟いた。

「?分かってますよ」
「でも、ここは寒い」
「ベッドも冷たいですね」
「身体も冷えてきた」

ギシッとベッドがしなる音が響き、幽助は蔵馬の脚を跨ぐようにベッドに乗り上げた。
幽助の唇がかすかに震えている。かわいそうに、と蔵馬は思った。

「幽助…俺に何かしてほしいの?」

今日は雨が降っているから。独りきりの空間が怖かったから。こんなにも静かすぎるから。
そんなことなんか理由ならないくらい、幽助の瞳は熱に浮かされていた。しなだれかかる身体を冷たいベッドに横たえて、蔵馬は艶やかな笑みを浮かべた。

「蔵馬…」
「大丈夫、今に温かくなるよ」

青ざめ始めた唇に色を戻そうと、蔵馬は自分の唇を乗せた。





(次はちょっとえっちぃの…かも)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ