短篇

□死セル暴君
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死セル暴君



いっぽ、にほ、さんぽ…
はいストップ。君はそこまで。そこがギリギリ範囲外。

笑顔で俺の肩を掴む手はちいさな子どもの手で、なんて弱くて儚いかと哀れんだ。

そうか、

俺がそう返せば、子どもは深くうなだれて、手の力を強めた。

そうさ

子どもの表情は見えない。黒髪が顔にかかっているからだ。だがきっと端正な顔立ちなのだろうと、なんとなく分かっていた。
そして、今どんな感情をその表情に表しているのかも、なんとなく分かった。

「俺、昨日お前に告白したよな?」

びくっと肩を震わせて、子どもはこくんと頷いた。
そうか、やっぱりこれは夢の中なんだ。だからこいつはこんなナリをしていて、言えない心の壁を俺に見せ付けようとしているんだ。

なんてこざかしい。

恋心ほど厄介で執念深いものもないってことを教えてやるよ。

「お前だって、俺のこと好きなんだろ?」
「本気でそう思う?」
「思うね」
「男同士だよ?」
「はぁ?だったら俺の気持ちもお前の気持ちも全部気の迷いってことか?」

肩を掴む手を払い落とすと、子どもはわずかに狼狽した。行き場のなくなった手をさ迷わせて、俺の顔を伺う子ども。
俺は冷めた目でそれを見て、ため息をついた。子どもの顔色が変わった。

「まあいいか。俺の気持ちが気の迷いってんなら、俺はもうお前に愛なんか囁かねぇってだけだしな」

教えてやるよ。
主導権を握ってるのはお前じゃない。惚れたのは俺じゃない。

「自惚れるなよ、形のないものを維持させたいなら行動しやがれ」

弾かれたように伸ばされた手を難なくかわして、子どもから数歩距離をとった。
途端泣きそうに顔を歪めて、離れた分だけ距離をつめてきた。

「…なあ、お前は俺よかよっぽど頭いいんだからさ、チャンスの見極めくらいできるよな?」
「………」
「俺はまだお前が好きなんだけど、……お前は?」



「…で、そいつは何て言ったの?」

目の前で真剣な顔をしているのは、最愛の恋人。端正な顔を不安で曇らせて、俺の言葉を待っている。
俺は意地悪な気持ちになって、にんまり笑ってはぐらかした。

「さてね。ちょうどそこで目が覚めたんだ」
「うぇえええッ!?」
「あのガキ、生意気すぎて嫌いになりそうだったな〜」
「わぁああああ!!嫌だ嫌だっ!」

涙目になって俺に縋る姿に、夢の子どもの面影は欠片もない。
尊大で、傲慢で、高飛車な、殿様きどり。

「なあ兵助?仕方ねえからさ、もう一度だけチャンスをやるよ」

優しい俺に感謝しろよ?と嘯き、兵助の顎をくいと上げた。
今は涙目で情けない男が、夜にもなればこの屈強な俺を床に押さえつけ、執拗になぶり弄ぶような獣であるなんて、いったい誰が思うだろう。
美しいかんばせをこれでもかというほどいやらしく染めて、恍惚と俺の身体に食らい付くのだ。

ああ、なんて愚かな奴。
この獣を支配しているのは、俺。
この身ひとつ捧げるだけで、獣は俺の虜に。その目はずっと俺を求め、息も荒く俺を愛す。

「お前、俺のこと、好き?」

答えなんか、とっくに奪ったけどね。



(昔は精神的にも肉体的にもくく竹だったけど今は…みたいな^^)
title:@.HERTZ


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