短篇

□╋‥飛雪
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背徳の花



人間界には素敵なものがたくさんある。私は心踊らせながら、日々違った景色をみせるこの世界を生きていた。
人間界は好き。

私は毎日街を歩く。時間があるときに行けるところまで歩いていく。
今日のお土産は何にしようかしら。

そんなことを考えながら、お日様の下で気分よく進む。今日はたくさん時間があるから、いつもより遠くへ行ってみよう。

街の中の、小さな公園。
この間偶然見つけた、私のとっておきの場所。
誰もやってこないさびれた静かな公園だけど、とても綺麗な景色があるの。
私はそこでぼんやり過ごすのもいいなぁと思った。きっと、すっと穏やかな気分になれるから。

きらきらと、葉っぱの間から落ちてきそうな光を見るのが好き。
皆に見せたくても、これは持ってかえれない。とても残念…この場所はひみつの場所だから、誰にも教えられないから、連れてくることもできない。

放置されているために鬱蒼と草木の繁る公園の芝生の上、土の匂いのするそこにころんと転がった。

のどかなひととき。
ひとりきりというのも、わりに気楽でよいものではある。ただ少し寂しいだけ。

「今日のおみやげは…この場所にしようかな……」

そうしたら。もしかしたら
来てくれたり…しないかしら。
そう、たとえば、何でもない日に気まぐれを起こして、この静けさを好んで、やってきてくれないかしら。

ふらりと来て、ふらりと帰る。
そんな刹那のような時間でもいいから、あの人が来てくれたら…寂しいなんて思わないのに。


「…………私の願い、神様に届いてしまったのかもしれません」
「何の話だ?」
「くだらない話です」

頭上に影がかかって、影のほうに顔を向けると、木の幹に寄り掛かりながらじっと私を見つめる紅い目とぶつかった。
いつも突然現れる彼は、いつもどおり現れてくれた。

私は彼に笑顔をむけた。
彼はただじっとこちらを見て、おもむろに私に近づいた。
いつも隠されている両手が伸びて、ぱっと開いたら───

花びらの雨、が、落ちてきた。

「ふわっ」

ひらひら、はらはらと顔に落ちてくる花の洗礼。きっと私はまぬけな顔をしている。
だって驚いたんだもの!

「飛影さんっ!」
「…驚かせたか?」
「驚きますよ!どうしたんですか?」
「いや、なに。いつもとは逆にと思ったんでな、たまたま見つけたんだ。だから、みやげにと…」

あまりにたどたどしい台詞。
照れたように泳がす目。
らしくないことをしてしまったと、後悔しているのかしら。
だとしたら…男性にこんなこと言うのは失礼になるのかもしれないけれど…なんだか可愛いです。

「ありがとうございます」
「ああ」

彼の手からこぼれおちた花を拾い上げ、私は嬉しさに顔を綻ばせた。



(めめしい飛影)
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