短篇

□╋‥くく竹
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戻れない、進めない



友達が、同性の男が、輝いてみえるようになってしまったら…それはもう手遅れなんだろうか?

俺はまったく友人に恵まれたと思う。顔も性格も頭のレベルも申し分なしの、本当俺にはもったいないくらいの親友たちだ。
お互いの家に泊まり歩いたこともあるし、色恋沙汰も家族構成も含めて、知れることは全て知り尽くしていると言っても過言ではない。
…だがだからといって、その親友が一際きらめいて見えるなんてことがあるのだろうか。
しかもたったひとりの親友だけが!
俺もそこまでバカじゃないから、この現象の意味するところには、なんとなくだが予想はついている。
…ひじょーに認めたくない、というか認めにくいことではあるが、…多分俺は、その親友のことが、………

「ぁあああああッ!!!!!!」
「うわ!いきなり何叫んでんの?」
「今の会話の中で叫ぶ要素あったか?」
「はち大丈夫?三郎か勘右衛門に何か悪いものでも食べさせられた?」
「…なんで受身なの?雷蔵」
「はちは本能でヤバいかヤバくないか嗅ぎ分けるだろうし」
「俺は獣か」
「「違うのか?」」
「黙れ級長ズ!!」

うっかりしてた。ついつい思考迷宮に入ってて、今が休み時間だということを失念していた。そしていつもの顔ぶれと明日の予定について話していたことも。
およそ綺麗とは言えない髪を乱暴にかきむしって、あーともうーとも言えないうなり声と共に机に突っ伏した。
すぐに頭をぐしゃぐしゃと撫でられて、顔を上げた先には息をのむほどの美形。

「はーっちゃん、大丈夫ー?」
「……………………大丈夫」
「何、今の間」

いきなり綺麗な顔を近付けないでいただけますか兵助さん、思わず見とれてしまうじゃないですか。
…なんて言えないからな。
だからといって今目を逸らしたら明らかに挙動不審だ。半ばガンを飛ばすように兵助を見ていると、のしっと背中に重みを感じた。

「……三郎」
「ふっふっふー、はぁ〜ちぃ〜ざくぅ〜ん?」
「「「三郎、キモい」」」
「らっ…雷蔵ぉお!」
「はっちゃんから離れるのだ変態」
「テメーに言われたくねぇ」
「で、何なんだよ三郎」
「ちょっと耳貸しな」
「せくはら」
「黙ってろ豆腐」

何故かつっかかる兵助に苦笑いしながら、三郎の方に耳を寄せた。にやにやしながら呟かれた言葉に血の気が引いた。

『そんなに兵助が好きか』

「…口封じすればまだ!!」
「物騒なことを呟くな!!」
「テメェ三郎、はっちゃんに何言った!!」
「いちいちつっかかってくんじゃねぇよ!」
「はち?三郎の始末はやっておくから、何言われたか知らないけど気にしないで?」
「雷蔵こわー。鉢屋乙」


そのあとも何かと意味深なセリフや視線を投げられて、俺はすっかり辟易してしまった。

事実なだけに、聞き流すこともできないから厄介だ。
三郎が知ってるってことは、雷蔵や勘右衛門にも気づかれてるってことだろうなぁ。聡いやつってのは隠し事ができないから困る。
まぁ、本人は気付いてないからいいか。

「好き…かぁ」
「何が?」
「…………………………豆腐が」
「え!マジ!?」
「うーそ!…の反対の反対の反対、かなぁ」
「はっちゃん分かりにくい!!」

豆腐小僧 は 好き
豆腐 は …まぁ嫌いじゃない
ごめんな、兵助。
好き、なんて言えない。言えないよ。友達としてすら居られなくなるかもしれないんだから。
気付かないで…でも、気付いてほしいな。どうせ友達では満足できなくなるんだろうから。

「はっちゃん?」
「…あーぁ」
「明日、いっぱい遊ぼ?」
「…うん」
「楽しみだね」

嬉しそうな笑顔に、俺の足はその場所に縛り付けられる。
踏み出すことは…不可能だ。
「楽しみだ」と、俺は上手に笑えただろうか。



(兵助と八左ヱ門はにぶちん)
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