短篇
□╋‥くく竹
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神に背いて
輪廻転生、というのは、禁忌を犯すことのなかった心身共に清き者だけに与えられる、神の恩情。
ならばこの現実は…夢なのだろうか。
紙パック豆乳を音をたてて啜る。
昼休み終了のチャイムを遠くで聞きながら、ああ次の授業は日本史だったなぁと思った。
担当が面倒な性格だから、ノートはあとで写さしてもらおうと決めると、ちょうど空になった紙パックをぐしゃりと握り潰してコンクリートに寝転がった。
「退屈…すぎ」
明日を約束された日常。
頭の隅っこにくすぶる、遠すぎる過去の記憶がちくちくと身体を蝕む。
どこか危なっかしい日々を、当然のない明日を生きていた頃が懐かしくて羨ましく思えた。
俺にはいわゆる前世の記憶というものがある。所々曖昧な点はあるが、ほぼ一生涯の記憶だ。よい先生、よい友人、そして…よい恋人に恵まれて、短い人生だったけど幸せだった。
目を閉じれば、暗闇にぼんやりと浮かび始める思い出は、初めこそ穏やかな安息を与えてくれたが、最近では憂鬱の種になってしまった。
「平和は願いだったけど…でも、ひとりぼっちじゃあ意味がない」
悲しみと虚しさを味わうために、輪廻をくぐったわけではないというのに。
…俺は何か、運命に嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。そうだとしたら、俺の愛した彼らは、運命にちゃんと好かれただろうか。せめて、せめて、どうかあの優しい人びとが、無事に平和を過ごしていますように。
「はっちゃん…きみは、いったい、っ…どこに───!」
俺に愛されて禁忌を破らせてしまった、あの可愛い恋人は、輪廻をめぐって来れただろうか。
俺の現状が、君との禁忌の賜物で、もしかしたら君にもとばっちりが行っているかもしれないとしても、それでも。ああ愚かしくもまた俺は、何度も思ってしまうのだ。
──君に逢いたい。
この腕に抱き締めて、もう一度そのぬくもりを守りたい。
今度こそ、二人幸せになれたなら…──俺は神すら怖くない。
(現パロ久々知)