短篇

□╋‥くく竹
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許されない想い



ひとくちに愛情といっても種類がある。
友愛、親愛、信愛、敬愛、恵愛、慈愛、自愛、情愛、憎愛、渇愛…友を愛し、自然を愛し、物を愛し、子を愛し、自らを愛し、恋人を愛する。

愛のかたちは十人十色。俺があいつに向ける感情とあいつ以外に向ける感情が違うように、伝えるだけが、密やかに思い続けるだけが、愛ではない。
俺の愛の示し方は、その思いを諦めきることだった。

よき友人として、あいつの話し相手にならなくてはならない。どんな言葉をかけられても、どんな行動をとっていても、俺はただ中立の存在であり、あいつを見ていなくてはならない。

なぜなら、俺はあいつの親友だから。

長く一緒にいれば、自然と友情以上の感情を抱くこともある。それを割り切るか割り切れないかで、相手からの信頼を裏切るか裏切らないかが決まる。
俺はあいつの笑った顔が好きだ。
できればこの学園を出たあともずっと笑顔で暮らしてほしい。…だけどきっとその願いは叶わないから、せめてこの学園にいる間だけは。

「はっちゃん、どうしたの?凄く怖い顔してるよ。何かあった?」
「いやな〜ちょっと寝不足でさ」

すっかり上手くなった嘘。
…諦めきると言ったが、諦めきれていないのが現状だ。ちくちくと痛む心を押しやって、俺は慣れた作り笑顔を浮かべる。

「本当に寝不足?」
「俺がお前に嘘つくと思うか?」
「うん」
「信用ねーなぁ」

最近、兵助は俺に探りをいれるようになった。目には常に疑いが光り、時々とても悲しそうな顔をする。
人の、とくに俺の感情に敏感な兵助は、俺の嘘や強がりをすぐに見抜いてしまう。
今回はあいつの予想だにしない理由だからか、なかなか見当がつかないようだ。
まさか男友達が同性の自分に恋愛感情を持っているなんて、考えつきもしないだろう。

「はっちゃんはね、完璧な嘘と笑顔を作るよ。でもそれは誰かを本当に大切に思っていて、その誰かを守ろうとしている時だ。だから分かるんだよ」
「んなことねぇよ」
「あるよ。何年傍にいたと思うの?どれだけはっちゃんを見てきたと思うの?…分からないわけ、ないじゃないか」

─ああどうか、どうかそのまま気付かないでいてくれ。
その疑いが確信に変わる前に、この思いは消してみせるから。
お前はこんな感情を知るべきじゃない。
こんな汚れた…卑しい思いを悟らせたくはないんだ。

ほら、また。お前が俺を本当に見てくれていたのが嬉しくて、涙が滲んできたじゃないか。
頼むからこれ以上お前を好きにならせないでくれよ。…諦めるのが辛くなるじゃないか。無駄な期待をしてしまうじゃないか。

「はっちゃん泣いてる?」
「泣いてねぇよ」

「泣いてよ」
「やだよ」

「そしたら甘やかして聞いてあげるよ」
「いらねえ」


「そんな権利、俺にはねえんだ」



(信頼と悲愛)
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