短篇

□╋‥綾タカ
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四つ葉



額に浮かぶ汗を拭いながら、穴に丸く切り取られた空を見上げたら、ひょこりと黄色い頭が覗いた。
手招かれるままに穴から這い出ると、疲れの滲んだ笑顔が見えた。

「暑いのによくやるね〜」
「あなたこそ、この暑いのに外にいるなんて珍しい」
「うん、暑くてばてそう」

さらりと答えるものの、彼はかさかさと雑草を掻き分けるだけで、すぐ傍の日陰にすら入ろうとしなかった。
私としては日課の穴掘りも終わり、何より暑かったのでさっさと室内に入ってしまいたかった。だが、タカ丸さんのいる辺り…つまりこの辺はつい今しがた私が掘った穴があちこちに潜んでいる。
一人で放置させておけば、確実に一回以上は落ちるだろう。

「世話が焼けますね」
「なぁに?」
「いーえ、なんでも」
「そう?…あれ、居てくれるの?」
「ええまぁ。休憩がてらここにいます」
「ふふ、何か嬉しいなぁ」

いつもより眉が下がって、やはり暑いのだろうことがよく分かった。
いつもは鋏と櫛を握る手が、泥や草の汁で汚れていくのを見るのはなんとなく引っ掛かった。
綺麗な手なのにかぶれてしまわないか、とか、爪にまで泥が入っていたら面倒だろうなあ、とか。そこまでして何をしているんだろう、とか。

「何を、しているんです?」
「んーと、…捜し物」
「見つかりませんか?」
「見つからないねぇ」

彼の手は休まず小さな葉っぱの群生を探っていく。小さな丸くて白い花がぽわぽわと浮かんでいた。

ふと、私は木陰のほうを見やった。その木陰の根元にも、同じ草花の群生があった。
せっせと捜し物をする彼の肩をつんつんとつついて、振り返った彼に小さく笑いかける。

「タカ丸さん、シロツメクサの四枚葉は陽当たりの悪い場所でよく見つかります。ここでは陽当たりが良すぎるので、あの辺で探すといいですよ?」
「ええっそうなの?!…てか何で分かったの!?僕がシロツメクサの四枚葉を探してるって」
「……勘、です」

あなたの行動は幼稚で乙女じみたものがあるから。というのが本当の理由なのだけれど、…まぁ言わないでおこう。
彼は早速木陰に移動し、また黙々と探しはじめた。私の読みは当たったようで、数分たらずで彼は歓喜の声をあげた。


予定外に外に長くいたので、まだ頭がぼーっとしていた。夕食時になり、ふらふらと廊下を歩いていたら、聞き慣れた声がかけられた。

「綾部疲れてる?」
「…大したことないです」
「そう?あ!コレあげるよ!!」
「?」

疑問符を浮かべる私の手に乗せられたのは、昼間のシロツメクサの四枚葉。

「これ…」
「綾部におすそわけ!幸せの御守りだよ〜」

「…ありがとうございます」

照れ隠しに、あえて無愛想にお礼を言い捨てる頃には、ぼんやりとしていた頭も冴えきっていた。



(背景どこだろう)
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