短篇

□╋‥綾タカ
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特効薬



忍術学園の人たちは何かと生傷が絶えないから、保健室の薬はいつも切れ切れで、だけど一番利用頻度の高い会計委員会委員長は予算を増やしてはくれないんだ。
一度、肘を擦り剥いてお世話になったときに、伊作くんがぼやいていた。薬草を自家栽培してなんとか繋いでいるらしい。それは大変だね、と苦笑いをしてから、保健室が成り立っているのは不運と名高い彼らの活躍のおかげなんだなぁとしみじみした。

「あ、そうだ。タカ丸さんは綾部と同じ学年でしたね?」

よかったら渡しておいてくれませんか?と、小さな二枚貝に入れられた軟膏を手渡された。しばしば穴掘りの最中に怪我をしても、気の向いたときにしか保健室を訪れないために、せめて傷薬を渡しておこうとのことだった。
保健委員というのは誰も彼もがこんなにも優しいのだろうか、そういえば一年は組のあの子も優しすぎるくらい優しい子だったなぁ。
ほんわかとした気分になりながら、タカ丸は二つ返事で引き受けた。

「綾部〜、あーやーべー」

校庭、中庭、教室。心当たりは全て回ったものの、綾部の姿は見当たらなかった。もしかしたら部屋に戻っているのかも。タカ丸はい組の長屋へ向かった。

「たーかまーるさん」
「綾部!」

泥だらけで抱きついてきた綾部を嫌な顔ひとつせず、どころかむしろ嬉しそうに受けとめたタカ丸。
綾部ったら可愛いなぁ。弟ってこんな感じなのかなぁ?
綾部の根底にある下心などには気付きもせず、タカ丸は無邪気に綾部のふわふわな髪に鼻先を埋めた。

「伊作くんから薬を預かったんだよ」
「お節介な人ですよね」

二枚貝を受け取りながら、綾部はひとつ溜め息をついた。その手には今しがたついただろうかすり傷があった。
手渡したばかりの軟膏を掬いとり、刺激の少ないないように優しく塗った。

「早速役にたったね?お節介だっていいんじゃない?」
「…そーですね」

綾部の手を包むと、そっけなく視線を逸らされた。可愛くない反応に、タカ丸はむすっと頬を膨らました。手を離して、二枚貝の入れ物を綾部の頭に乗せると、悪戯っぽく笑った。

「もう少し素直になりなよね、じゃないと嫌いになっちゃうよっ」

綾部の表情が引きつったように見えた。明日からは素直になろうとしてくれるかな?と期待しながら、タカ丸はとことこと歩いていった。



(タカ丸優勢)
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