短篇

□╋‥くく竹
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否定



愛しい、狂いそうだ。…だが、それもいい。
束縛だと他人から嫌悪されたとして、だからどうしたというんだ。
俺はこういう男だ。まして、この生死の瀬戸際にある乱世において、慈しみ触れ合うだけの愛など脆く儚すぎるだろう。心から愛した相手でも、生きる道が違えば別れなくてはならない、よくて一時、最悪の場合永遠に…。

「ねぇはっちゃん、はっちゃんは俺のこと愛してる?」
「愛してるよ」
「そう。じゃあ命尽きるまで一緒に生きてくれる?俺の傍で生きてくれる?」
「どうかなぁ」
「嫌だ、約束してよ。それか今この場で俺を殺してよ。俺ははっちゃん以外と生きる気なんかないんだから、はっちゃんが俺の傍で生きてくれないなら俺は今の幸せなまま死にたい」
「俺は兵助に生きてほしい」
「酷い、酷い。はっちゃんは悪魔のようだ。そんなにもあたたかくて天使のような笑顔でなんて酷いことを言うの?俺に独りで生きろと言うの?」

別れたくないというのは綺麗ごとで不可能なこと。別れは絶対的な過程だ。だからそれを恐れることはしないけれど、それを決めるのは自分でありたい。
時代の流れに殺されるのも、忍の宿命に殺されるのも嫌だ。そんな他人事で別れるなんてまっぴらだ。当然、恋人がそんなものに殺されるのもまっぴらだ。

「兵助、ひとつ約束してくれ。それが守れるなら、俺はお前の傍で生きていける」
「どんな約束?」
「俺以外に殺されないこと。もちろん自害も許さない。お前は任務や年月に殺されてはいけない、お前が死ぬことができるのは俺がお前を殺すときだけだよ」
「なんだそんなこと?もちろん約束するよ。はっちゃんが俺より早く死んでしまっても、俺はずっとはっちゃんに殺されるのを待つのだね?」
「そう」
「なんて素敵なんだ。はっちゃん、君はとても素晴らしいひとだね!愛しているよ、命を懸けて、誓っていい!!」
「嬉しいよ兵助!俺はお前のそういう一途なところに惚れたんだ。…今とても満ち足りていて幸せだよ」

一途で愚かな愛しいひと。
お前は俺を悪魔と言ったが、まさしくこれは悪魔との契約だよ。お前はこれで俺から一生離れないよね?だってお前は依存されたらされただけ愛しさが募る性格だものね?
俺は命懸けでお前を愛しているのだから、お前も命懸けで愛し続けなくてはいけないんだよ。

俺たちは指を絡ませて静かに笑った。
今、とても…幸せだ。



(2人とも気狂い)
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