□シンデレラの魔法
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「あまり無茶はするなよ! 大森、めぐみを頼む」
 相楽くんはそう言って、めぐみちゃんと私を見送った。



 帰り道、私たちは台本を持って劇の練習をしながら帰っている。
「シンデレラ、私の真珠の首飾りは一体何処に、い、いったのかしら?」
 めぐみちゃんは台本通りにセリフを言うのが苦手なようだ。
 口調を自分の口調に直してしまう。
 でも、これでもだいぶマシになった方で、最初の方は頼むように「お願い」とか付け加えたりして意地悪な感じが全然しなかった。
 めぐみちゃんは大きく溜め息を吐いた。慣れない口調に少し疲れたのか「劇って難しいね」って言葉を漏らした。
「お姉さんって何で、シンデレラに意地悪してるんだろう。絶対に仲良しでいた方が楽しいのに!」
 めぐみちゃんの言葉に私は苦笑いする。
「きっと、色々あるんだよ」
「色々……」
 私の言葉にやっぱりめぐみちゃんはいまいち納得してない様子だ。
「やっぱりわかんない」
 そう言うめぐみちゃんに私は小さく笑った。なんともめぐみちゃんらしいと思う。
「私だったら意地悪なんてしないよ。だって、シンデレラは家事をあんなに頑張ってるのに」
 つくづく、めぐみちゃんに意地悪なお姉さんは似合わないと苦笑せざるを得なかった。
「だったら、魔法使いの気持ちはわかる?」
 私の言葉に、めぐみちゃんは大きく頷く。
「困っている人は助けたいし、頑張って人は応援したい!」
 笑顔でそう言い切るめぐみちゃんに、思わず私も笑ってしまった。
「めぐみちゃんが魔法使いをやった方がよかったのかも」
 今更言ったって、もう役の変更は出来ない。
 それに、私たちはしようとも思わないだろう。
「いやいや、私には向いてないよ! ドレスのセンスがないし!」
 やっぱり予想通りの言葉が来た。
「ゆうゆうの方が魔法使いらしいよ!」
「えっ、そう?」
「そうそう。ゆうゆうだって困っている人を放っておけないでしょ? それに、料理上手で料理のレシピを沢山教えてくれるし!」
 めぐみちゃんは饒舌に私の魔法使いらしさについて語っている。なんだか魔法使いらしさから逸れている気もするんだけど、楽しそうに語るめぐみちゃんを見るのは面白くて照れくさい。
 〆の言葉は「あとハニーキャンディー!」と、やっぱり魔法使いらしさとは違うものだった。
 私はハニーキャンディを二個、ポケットから取り出す。
 めぐみちゃんに渡すと、「えっ、くれるの?」と驚きつつも受け取ってくれた。
「あー、幸せハピネスだよ」
 めぐみちゃんはハニーキャンディを舐めながら、そんな言葉を漏らす。
 私もハニーキャンディを口に入れた。
 めぐみちゃんは向いていないって言ったけど、私は魔法使いを向いていると思うな。やっぱり。
 確かにドジだし、ちょっと考え足らずな部分もあるけど、迷わず突っ走っていけるから。
 ふと、私の頭の中にある考えが過ぎる。
 魔法使いの私の魔法でめぐみちゃんを魔法使いにするのはどうだろう。
 私とめぐみちゃんの二人の魔法使いでシンデレラに魔法をかけにいく。
 そうすれば、きっと色んなことが上手くいく気がする。
 ――なんて、劇の内容を変更するのはダメだよね。
「めぐみちゃん、そろそろ練習再開しようか」
 私の言葉にめぐみちゃんは一瞬、目を丸くして「そ、そうだね!」と返した。
 劇の練習のこと、少し忘れていたのかな?
 思わず、私は笑ってしまった。
 やっぱり、めぐみちゃんは魔法使いに向いていると私は思う。


 誰も気付いていないかもしれないけれど、めぐみちゃんは私に小さな魔法をかけているんだよ。
 こうやって話したり遊んだりすることでね。
 決して魔法使いの魔法じゃないし、他の人には見えないかもしれない。
 でも、私にとっては大切な大切な魔法。
 私にもその魔法、めぐみちゃんに使えてるといいな。
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