文
□はじめてのおつかい
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「お母さんって凄いんだよ! 料理に洗濯に掃除や色々、全部一人でやってるんだから」
めぐみは目を輝かせながら、俺にそう話す。
「頑張ってるお母さん見て、私も頑張らなきゃって思ったの」
でも、一瞬だけ少し暗い顔をした。
それに対して、気になったけれど聞かないでおこうと思った。
心当たりはある。
かおりさんは身体が弱い。母さんからそう聞いていたし、薬を飲む姿をよく見掛ける。
「私、頑張ってお母さんの力になりたいなって思ったから。だから、少しでも役に立てて嬉しいよ」
すぐに明るく笑うめぐみに、俺は小さく笑った。
俺はめぐみの買い物バッグの持ち手を持つ。
「誠司、いいよ。重いでしょ」
「大丈夫。何のために空手やってると思ってるんだ?」
少し困った顔をしためぐみにそう笑い掛けると、めぐみは「それじゃ、半分こに持とう!」と持ち手を片方だけ持った。
二人並んで、かおりさんの待つマンションへと帰って行く。
なんとなく、今日のそわそわしたかおりさんはめぐみには秘密にしておこうと思った。