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□はじめてのおつかい
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かおりさんは「でも、偉いわ!」と嬉しそうに笑った。
めぐみが向かったのは、何やらカレーのルーなどインスタント食品が並ぶコーナーだ。
そこのシチューのルーに必死に手を伸ばそうとしていた。
シチューのルーはめぐみの身長で届きそうで届かない絶妙な場所に置いてある。
「めぐみ、誰かに頼ってもいいのよー……」
その姿にかおりさんはそう小声でめぐみに言っている。
かおりさんのそわそわはどうやら最高潮みたいで、今すぐに出ていきたいって顔だ。
それは俺だって同じだけど、ここで出て来たらなんだかダメな気がして動けずにいた。
「あっ!」
めぐみが驚いた声を上げる。
必死に取ろうとしていたシチューのルーが棚から落ちた。
それはめぐみの方に落下していって頭に当たるかと思ったけれど、めぐみはそれを白刃取りするかのようにキャッチしていた。
めぐみは少し自分の行動に驚いたあと笑い、かおりさんと俺はほっと胸を撫で下ろした。
シチューのルーを買い物カゴに入れためぐみが次に向かったのは乳製品のコーナーだ。
迷わず1リットルの牛乳を選んで、重たそうにしながら買い物カゴに入れていた。
「牛乳はもっと小さくても良かったのよー」
そう言いつつ、かおりさんは目頭を熱くしていた。
「これであとは支払いだけねぇ」
かおりさんは感慨深くそう言う。
そんなかおりさんに俺は微笑ましく思いつつも、ふとあることに気づいた。
「かおりさん、ここに居ていいんですか」
「――えっ?」
「めぐみが先に帰ると尾行してたことバレるじゃないですか」
俺の言葉に、かおりさんは「確かに、そうね!」と慌ててスーパーから出て行った。
俺は一人になってしまった。
でも、そのまま帰るのは何だか心配だ。
とりあえず、支払いまで見守ることにした。
めぐみは重たそうに買い物バッグを持って歩いている。
「めぐみ」
俺が声を掛けると、振り向いて少し驚いた顔をしていた。
「あっ、誠司。今帰り?」
「おう。めぐみは買い物してたのか?」
俺は何も知らない顔をしてそう聞く。
めぐみはなんだか凄く嬉しそうな顔をして「うん!」と頷いた。
「お母さんに頼まれたの」
めぐみはえへへっと笑っている。
その様子に、俺は頬が緩んだ。
「嬉しそうだな」
「そりゃ嬉しいよー!」
めぐみは不思議な奴だと思う。
昔からめぐみが嬉しそうだと、俺も嬉しくなる。