□ベランダでのHAPPY NEW YEAR!
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 時計が十二時を回る。
 年が明けた。
 相楽誠司はそっとすやすやと眠る妹に毛布を掛けて、黄色いマフラーを手に取る。
 そして、ベランダへと向かった。
 そこには幼なじみがいるはずだ。
 相楽誠司も愛乃めぐみも年が明けて最初に会う人間は、隣に住む幼なじみだ。
 どちらかが決めた訳ではないが、自然とそうなっていた。
 今年はめぐみの方が早く来ていた。
「誠司!」
 めぐみは誠司に明るい笑顔を向ける。
 誠司は小さく口角を上げた。
「あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」
 その言葉に誠司は安堵を感じる。
「おめでとう。今年もよろしく。――本当に去年は色んなことがあったな」
 何故なら、もう今この瞬間がなくなってしまうんじゃないかとさえ、去年は思っていたからだ。
「そうだね。私、プリキュアになっちゃったし!」
 めぐみがえへへと笑ってみせる。
 特に無理はしてないが、何処か誤魔化すような笑顔だと誠司は思った。
 去年、めぐみは恋をした。それは初めての恋だ。
 そして、その恋は一緒に年を越すことはなく、一年経たずで失恋となった。
 そんなめぐみの姿を見て、相楽誠司は気付いてしまった。
 それは自分の胸の奥にあった気持ちだ。
 いや、それは少し語弊があるかもしれない。
 ずっと自分の中にあって、あるのが当たり前で、空気と同じようなものだと勘違いしていた感情だ。
「あっ、マフラーつけてくれてる!」
 めぐみが声を弾ませる。
 その嬉しそうな表情に、誠司の顔の熱が上がった。
「これ、暖かいよな」
 誠司はマフラーに触れ「凄く助かってる」と笑った。
「ほんと? ありがとー!」
 めぐみは大袈裟に飛び跳ねて喜んでいる。
 その姿を見て、誠司の胸に暖かなものが流れ込んできた。
 確実に、変わっていっている。そう誠司は考える。
 失恋しためぐみを見て、誠司は悲しかった。
 だけど、自分が失恋したとはあまり考えなかった。
 多分、それは諦めてないから、と誠司は思う。
 まだ諦めてないうちは恋が失恋になることはない。
 誠司は首に巻くマフラーを一度解く。
 めぐみは驚いたのか、目を丸くした。
 でも、次の瞬間、その目は泳ぎ出す。
 そのマフラーは自分の首にかけられ誠司と一緒に巻かれたからだ。
 めぐみが編んだマフラーは二人で巻くにはちょうど良い長さだった。
「せ、せせ誠司、これは一体……?」
 そう聞くめぐみの顔は真っ赤だ。
 鈍感なめぐみだが、いきなりの誠司の行動に嫌でも意識せざるを得ない。
「めぐみだって、寒いだろ?」
 ぶっきらぼうに言う誠司の顔は半分マフラーで隠れていた。
 めぐみは「確かに寒かったけど……」と呟くだけだった。
 その後に続く「これだと熱すぎる」という言葉は飲み込んだ。


 いつものようだが、いつもと違う年明け。
 きっと今年の二人は何かが変わって何も変わらない、はず。

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