□シンデレラの魔法
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 私は今、じっとカボチャを見つめている。重くて美味しそうな、青々としたカボチャだ。
 今は学習発表会の練習中。私たちのクラスは演劇で『シンデレラ』をやることなっていた。
 配役はくじ引きで決まる。
 私は魔法使いを引き当てた。
 そして、めぐみちゃんは見事にシンデレラを引き当てた――けれど。
「シンデレラ、部屋の掃除をお願い――いや、してなさい!」
 めぐみちゃんは台本を見ながら、たどたどしくそう言う。
 どういう訳か、いつの間にかシンデレラから意地悪なお姉さんに変わっていた。
 今のシンデレラをやってる子に頼まれて、くじを交換したらしい。
 めぐみちゃんは誰かに何かを頼まれるのが好きだ。
 ニコニコと笑いながら「私にドレスは似合わないから」と帰りに話してくれた。
「――ゆうゆう?」
 めぐみちゃんの声がして顔を上げる。
 めぐみちゃんが不思議そうな顔をしていた。
「もうそろそろ出番だよ!」
 でも、私と目が合うと、へらっとした笑顔に変わった。
「なんか珍しいね。ゆうゆうがぼーっとしてるの!」
 私もめぐみちゃんににっこりと笑い返す。
「このカボチャ、パイにしたら美味しそうだなって」
 そう言うと、めぐみちゃんは「おー」と感心した声を上げる。
「確かに。でも、私はいとこ煮もいいと思うな!」
「そうだね。いとこ煮も美味しいよね」
 私は目を閉じてパンプキンパイといとこ煮を両方思い浮かべてみる。
 でも、すぐに「大森さーん」という声が聞こえてきた。
 どうやら出番が来たらしい。
「ゆうゆう、それじゃ頑張って!」
 めぐみちゃんがそう私にエールを送った。



 相楽くんは大道具を引き当てていた。
 だから、大道具を作るために放課後居残りをすることになっている。
「えーっ、私手伝いたいのに!」
 めぐみちゃんが大きく嘆きの声を上げた。
「だって、だいぶ本番が近付いてるだろ。めぐみは役貰ってるんだから」
 相楽くんがそう言う。呆れながらも何処か嬉しそうだ。
 そう、もうそろそろ本番が近い。
 だから、相楽くんはめぐみちゃんに自分のことを専念して欲しいのだろう。
「私、セリフは全部覚えてるよ!」
「でも、完璧じゃないだろ? 今日の練習だって、結構言い間違いしてたし」
 めぐみちゃんは言い返しはするが、すぐに返り討ちにある。
 めぐみちゃんは「そ、そうだけど……」と目を泳がした。
「だから、帰って練習!」
 相楽くんはめぐみちゃんの身体の向きを変えさせた。背中を押して、教室から廊下に出した。
 押し出されためぐみちゃんの表情は浮かない。
 相楽くんの方を振り返って、「わかってるけど、大道具作り楽しいし……」と口を尖らせた。
 その姿に私はなんだか笑ってしまい、相楽くんは大きく溜め息を吐いた。
「俺さ、期待してるから」
 頭を掻いて、照れくさそうにめぐみちゃんに言う。
「めぐみが舞台に立つところ」
 そう言う相楽くんの頬はほんのりと紅く染まる。
 多分、そのことに相楽くんもめぐみちゃんも気付いてないだろう。
「――ほんとに?」
 めぐみちゃんの声色は明るくなった。瞳もキラキラと輝き出してる。
 相楽くんは「ほんと、ほんと!」と照れくささから投げやりに言うと、めぐみちゃんは「じゃあ、頑張る!」と嬉しそうに跳んで喜んだ。
「本当に練習しなきゃダメだね! 劇、絶対に成功させたい!」
「おう。絶対に劇を成功させような」
 俄然やる気が出てきためぐみちゃんは「またね、誠司ー!」と手を振る。
 そんなめぐみちゃんを見て、相楽くんは小さく笑う。
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