文
□罪作り
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大使館で神様とミラージュさんが仲睦まじく歩いていた。
すれ違ったとき、私は笑って挨拶をしたけれど、上手く笑えていたのだろうか。
この気持ちは一体、何なんだろ。
嬉しいけど、悲しくて苦しい。
こんな気持ち、私は知らない。
神様がゆうゆうに本場インドのカレー粉を買ってきた話を聞いたときには感じなかった。
今思い出したって、ゆうゆう良かったねって気持ちが沸いてくる。
ひめが大使館での神様の話をするときにだって感じない。
表情豊かに神様の物まねをしたりして話すひめの姿を思い出して、微笑ましい気持ちになる。
でも、合宿で星空を一緒に見たことや神様が「悩んでもいい」と言ってくれたことを思い出すと、胸が少しだけチクリと痛む。
この前までは、そんなことなかったのに。
今だって私は全ていい思い出だと断言出来る。
なのに、今思い返すのは少し辛い。
ずっと神様がミラージュさんを好きだということはわかっていた。
わかっていたけど、やっぱり風邪引いて看病してくれたことやハロウィンでケーキを分けてくれたことは嬉しくて堪らなかった。
――私は独り占めしたかったのかな?
ぼんやりとそんな言葉が浮かんでくる。
だけど、ゆうゆうにベルギーのチョコレートをあげない神様や、大使館でひめと過ごさない神様は、それはもう神様じゃない気もする。
勿論、ミラージュさんをずっと想っていない神様も神様じゃない。
だから、これでよかったんだ。
「めぐみ」
不意に誠司の声が聞こえてくる。
心配そうに私を見つめていた。
「大丈夫か?」
その言葉に私は透かさず首を縦に振る。
だけど、そのあと「ただ」と言葉が続いた。
「優しさって少し罪作りだね……」
思わず、そんな言葉を漏らしてしまう。
誠司はしばらく何も言わなかったあと、「――そうだな」と苦笑した。