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□はじめてのおつかい
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それはずっと昔の話だったと思う。
「おばさん……」
ある日、俺は電柱に隠れるように身を屈めているかおりさんを見つけた。
俺はひとまず一緒に居た友達に別れを告げて、かおりさんの様子を窺った。
かおりさんは隠れているんだけど、時々そっと何か心配そうに電柱から顔を出している。
一体何を見てるのかと思えば、先の方にめぐみがいた。メモと買い物バッグを持って歩いている。
それを見て、俺はかおりさんが何でそわそわしているのかわかったような気がした。
「かおりさん」
そう後ろから声を掛けると、かおりさんの肩は大きく跳ねた。
恐る恐るかおりさんは振り向くと、俺の顔を見て安心したかのように笑った。
「な、なんだ。誠司くんか」
「――何してるんですか」
俺が溜め息混じりに聞くと、かおりさんは困ったように頭を掻いて「あはは……」と笑った。
「めぐみに今、おつかいを頼んでて」
「それで、心配で様子を窺ってたんですか」
かおりさんは「はい……」と恥ずかしそうに俯いた。
「あの子、最近よくお手伝いしてくれて。おつかいもやりたいって言うから頼んだんだけど、やっぱりちょっと心配で……」
かおりさんは俯きながら、申し訳なさそうに俺に話す。
俺はそれに耳を傾けつつ、どんどん先へ進んでいくめぐみを見ていた。
「かおりさん」
俺に名前を呼ばれて、かおりさんは顔を上げる。
「めぐみ、見失いそうですよ」
俺の言葉に、かおりさんはかなり驚いた表情に変わった。
「そうね。今は尾行が先よね!」
そう言って、小走りでめぐみを追うかおりさん。
俺はその様子と、少しめぐみも気になって後を追うことに決めた。
スーパー。めぐみは買い物カゴを手に取って中に入っていった。
俺たちは何も持たず、その後をつけていく。
スーパーに入ってから、かおりさんは更にそわそわとし出したと思う。いかにも不安で心配ってオーラが全身から出ている。
幸い、めぐみがこっちに気づいている様子はなさそうだ。
ふと、めぐみがお菓子コーナーの前で立ち止まった。
少し行きたそうな顔をしている。
でも、立ち止まること数秒、顔をぶんぶんと横に振って、そこに行くことはなく歩き出した。
「ああ、今持ってるお金全部でお菓子買っても良かったのよ……」
それを見て、かおりさんがそんな言葉を漏らす。
「お、おばさん」
かおりさんは心配でいっぱいいっぱいなのか、思わず俺が呟いた言葉に反応しなかった。
いつもなら『かおりさん』と言い直すように訂正するのに。