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□オムライス
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あいつはオムライスを作るのが苦手なようだ。
下手って訳じゃないけれど、チキンライスを卵で包むのに結構時間がかかってしまう。
かおりさんが居ないとき、昼食少し不恰好なオムライスを運んで来て、何か誤魔化すようにあいつは笑っていた。
「いや〜、ごめん」
えへへと笑いながら、俺と真央に比較的出来が良いオムライスを配る。
あいつは最初に作ったのか、卵がかなり破れていて一番出来の悪いオムライスを選んだ。
「絶対、絶対次こそはうまく作るから!」
あいつはそう笑いながらオムライスを頬張る。
最初に食べた分を飲み込んでから「あ、味は大丈夫だし!」と付け加えた。
俺はその言葉に苦笑いしつつ、オムライスに手をつけた。
めぐみのオムライスを振る舞われてから数日後、俺は台所に立っていた。
「お兄ちゃん、何してるの?」
卵を解いている俺に、真央が眠たそうな顔をして話し掛ける。
「いや、ちょっと朝ご飯を作ってみようかと思って」
すると、真央は不服そうな顔をした。
「朝にオムライス??」
真央の言葉に、俺は苦笑いをしてしまう。
「ああ、オムライスだ」
「――お兄ちゃんってわかりやすいよね」
真央は溜め息混じりに言うと、「まためぐみちゃんの影響受けて……」とその場から離れていった。
俺はフライパンに目を向ける。
なんだか少し笑ってしまった。
自分でもあいつに影響されやすいとわかっているつもりだ。
熱したフライパンに卵液を注いで薄く広める。
ちょうど良い具合に焼けてきたところでチキンライスを載せて包もうとしたが、少しだけチキンライスが溢れてしまった。
それから次の日曜日。その日の昼食もオムライスだった。
かおりさんはちゃんと家に居るが、あいつが料理を作っている。
「お願い、リベンジさせて!」
また昼食がオムライスだと言ったあいつは俺たちにそう手を合わせて頭を下げてきた。
そうされると、断ることは出来ない。
俺と真央が「いいよ」と言うと、あいつは明るくパァッと笑った。
その笑顔には適わないなと俺は思う。
「お兄ちゃん」
オムライスを待つ間、真央はちょっと口を尖らせて俺を見る。
かおりさんは心配そうに台所の近くでそわそわしていた。
「さすがに週に何回もオムライスだとキツいよ。工夫しないと」
さすが兄妹なのか、真央は俺のことをよくわかっていると思う。