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□いおなとお買い物(誠司編)
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今、相楽くんと買い出しに来ている。
期末テストに向けて勉強合宿をしている真っ最中で、私達は猛勉強中のめぐみ達のために昼食を買いに行っている。
皆から希望を聞いたメモを片手に店内を歩く。
ここは相楽くんとめぐみがよく行くスーパーらしい。
私は値札を横目で見ながら、定価だなと思った。
適正な価格設定だ。変に高かったりはしない。
でも、ダメだ。どうしても、私が通うスーパーの方が安いと思ってしまう。
相楽くんをチラッと見る。
どうしよう。私には今から別の所に行きましょうと言い出す勇気がない。
ケチな女の子と思われたら、どうしようって考えている。
いや、あれは断じてケチではなく節約なんだけど、もしそう勘違いされて嫌そうな顔をされたらショックだ。
相楽くんは嫌そうな顔というより、困った顔をしそうな気がするけど。
兎に角、いつか未来に好きな人にそういう顔をされたらと思うと……。
嫌な妄想をしてしまう。
「ひ、氷川?」
相楽くんが心配そうに声を掛けた。私はつい立ち止まってしまっていた。
「あっ、ごめんなさい」
「いや、謝ることはないけど……」
相楽くんは不思議そうに私を見てる。
私は誤魔化すように笑った。
「ところで、どれが良いと思う?」
不思議な顔のままの相楽くんが指差したのはパンコーナー。「思ったより沢山あるよな」とぼやいている。
私の顔は引き攣る。間違いなく私の頭は一番安いのが良い! と主張している。
相楽くんはめぐみのリクエストのメロンパンを迷わず買い物カゴに入れる。それは三種類の中で二番目に安いものだ。
二番目に安い。それで良いのに、私の頭の中に警報が鳴り響いている
「さ、相楽くん……!」
堪えられなくなり、私は声をあげた。
「なるべく安いものを買いましょう。わ、私たち学生だし」
顔が熱い。相楽くんがどういう顔をしてるか見れなくて下を向いてしまう。
「氷川って節約家だな」
でも、相楽くんはいつも通りだった。顔をあげると、ニコッと笑っている。
「あ、ありがとう……」
その笑顔は私を安堵させた。
「――でも」
少し罪作りだとも思う。
「相楽くん。誰にでもそういうこと言ってると、本命に気づいて貰えないと思うわ」
「本命?」
「そう、本命」
私の言葉の意味を相楽くんはよくわかっていないようだった。
もしかして、気付いてないのだろうか。
自分が凄く楽しそうな顔であの子の話をすることに。