□夢の中で
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 目の前に、ずっと憧れていたあの人が柔らかく微笑んで立っている。
「お姉ちゃん……!」
 私が堪らなく抱き付くと、お姉ちゃんはヨシヨシと私の頭を撫でてくれた。
 そっか。私たちはファントムを倒して幻影帝国も倒して、世界が平和になったんだ。
「あのね、紹介したい人達が居るの」
 ひと通りお姉ちゃんの胸で泣いたあと、私は皆を紹介しようとお姉ちゃんの手を引いた。
「――皆!」
 そう声を張って皆を呼んだあと、私は言葉を失った。
 神様が黒髪の巫女拘束の女性と手を繋ぎ、ひめは相楽くんと腕を組んで親しげだ。
 そこだけ見れば幸せな光景だけど、それをめぐみが見ていた。
「あっ、いおなちゃん!」
 めぐみが私に振り向いて近寄って来る。
 いつも通りの笑顔で私は不安になった。
「もしかして、この人がいおなちゃんのお姉さん? 噂通りの美人だね!」
 めぐみは声を弾ませて、「いおなちゃんは色々と助けてもらいました」とお姉ちゃんに挨拶している。
「今日はパーティーしなきゃだね! それじゃ、ゆうゆう手伝って来るから!」
 お姉ちゃんと少し話したあと、めぐみはそう言って去っていった。
 追いかけなきゃ、と思った。
 理由は上手く言えないけど、めぐみがかなり危うく思えた。
 でも、身体が動かない。色んな言葉が頭を巡る。
『それって自分のためでしょ』『今の状況、少し喜んでない?』『本当に想っての行動なの?』
 全部全部、私の声だ。
 そんな中、私の背中はポンと押された。
「行ってらっしゃい」
 お姉ちゃんの声だ。お姉ちゃんの声にざわざわとした私の声達は掻き消されていった。
「うん、行ってくる!」
 さっきまで重かった足は驚くほど軽くなり、めぐみを追い掛けた。


「めぐみ」
 めぐみは驚くほど早く見つけることが出来た。
 私はめぐみの手をぎゅっと握る。走ったせいだろうか、胸も高鳴っている。
「私が居る。私が居るから」
 私の言葉にめぐみは目を丸くして驚いている。
 私たちの手の上に、もう一人の手が置かれた。
「私も居るよ」
 ゆうこだ。
「私たちが居る」
 ゆうこの言葉に少し気持ちが落ち着くけれど……。
「――二人とも、ありがとう」
 めぐみは元気なく笑った。
 いつもの笑顔じゃないけど、凄く安心した。
 けれど、同時に悲しかった。


 ふと目が開く。
 自分の部屋の天井に、何が起こったか一瞬わからなくなった。
 そっか。私は夢を見てたんだ。
 幻影帝国を倒してお姉ちゃんに会えた夢なのに、覚めてほっとした自分がいる。
 おかしい。総合的に見れば幸せな夢のはずなのに……。
 どうして、私はこんな夢見たのだろう。

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