□なりたいもの
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 国語の宿題が出た。作文だ。
 なりたいもの。
 そう聞かれると、俺も漠然としたものしか出て来ないが、俺の幼なじみは更に上を行っていると思う。
「まだよくわかんないけど、皆を幸せハピネスにする仕事が良いな!」
 将来の夢について聞かれためぐみはそう明るく答えた。
 めぐみはいつもそういう質問をされると、そう答える。
「でもね、どのお仕事も皆を幸せにしてるんだよね〜」
 そのあと、そう肩を落とすのもいつものお約束だ。
 大森はその様子を苦笑してはいるが、優しく見ていた。
「ゆうゆうはやっぱり、お弁当屋さん?」
 めぐみは大森に微笑み返した。
 めぐみの言葉に大森は少し悩む仕草を取る。
「最終的にはそうしたいんだけど……」
「最終的には……?」
「うん、色んな食べ物の研究をしに世界中を旅したいなーって考えてるの」
 大森がはにかんで言った言葉に、めぐみは目を輝かせる。
「凄い! なんだか壮大でゆうゆうらしくて素敵だよ!」
 目をキラキラとさせながら「絶対、応援するね!」と大森の手を握った。
 応援。そういえば、この前の空手の大会でも言っていたなとぼんやりと思う。
 めぐみはそういう奴だとわかっているのに、少し寂しく感じた。
「私も何か見つけないとなー」
 めぐみが溜め息混じりにそう言うと、どういう訳か大森が俺の方をチラッと見る。
「めぐみちゃん、お嫁さんとかはどう?」
 大森の突然の言葉に、俺の心臓は止まるかと思った。
 慌ててめぐみの方を見ると、きょとんとした顔になっていた。
「でも、それは相手が居ないとダメだよー」
 次にめぐみから出て来た言葉に、俺は少し残念な気持ちと安堵の気持ちが入り交じる。
 なんだかおかしな気持ちだと自分でも思う。
 めぐみに対してよく感じる気持ちだ。
 それは俺たちが赤ん坊のときから一緒にいるからだと思う。
 だから、おかしく思うけど、あまり深くは考えないようにしている。
「そのためにはまず恋愛をしなきゃだし」
「お見合いっていうのもあるよ」
「ダメダメ! 絶対、恋愛!」
 めぐみと大森は結婚話で盛り上がっている。
 相手が居ないとはいえ、こういう話で盛り上がるのは女子だなって思う。
「だって、恋愛の方が幸せハピネスって感じがするし!」
 そう無邪気に笑うめぐみから思わず俺は目を逸らした。
 自分でもどうして目を逸らしたかわからない。
『私、いつでも誠司のこと応援してるから!』
 気が付けば、この前の空手大会でめぐみが言ってくれた言葉を思い出していた。

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