沖田双子妹
□これからも先を歩きたい
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もし俺があの時先に、とか
もしアイツを残していたら、とか
過去を想定しても意味がないことは分かってんだ。そんなことしても現実は変わんねーし、ただ虚無感が襲うだけだって。
…分かってんだけど、ねィ。
お兄様は可愛い妹がいつまでたっても心配なんでさァ。
「えー?律お鶴ちゃんに告白されたの?」
「うん、昨日会いに行った時にねぇ」
「またかよ。こんなナンパ男の何がいいんだか」
「和泉はそんな性格だからダメなんだよぉ」
「ダメって何がダメなんだよ!」
サボれる場所を探して屯所内をうろうろしていると、耳に馴染んだ高めの声が聞こえて足を止める。
屯所の奥まった場所にある部屋は、なまえたちが話し合いをしたり重要な資料を保管しとく零番隊専用のものだ。その前の縁側になまえと神崎が座って、時が庭に、倉田が柱に体を凭れさせていた。
「また始まった。今日も律に1票」
「俺も律に。負けたら和泉の奢りで寿司ね」
「意味分かんねーし毎回賭けてんじゃねーよ!そして俺が勝つ!」
「そう言って毎回律に言い負かされて終わりのワンパターンなんだもん。何かしないとつまんないでしょ?あ、あたしとやる?」
縁側から降り、にんまりとした笑みを向けたなまえに、時は慌てて首を振った。
「いやいや、なまえとやる必要がどこにあんだよ」
「だから、ワンパターンはつまんないからだって」
「稽古ならやるけど手に持った鞭は捨てろ!」
「なまえどこでそんなの買ったの?」
「総悟に貰ったんだー」
そういやこの前あげたっけ。SMグッズの補充に行ったら店主からオマケで貰ったやつ。
なまえは鞭をバチンと手で引っ張り、時に顔を近づけた。
「や、やめろ、うああああ!」
もっと静かな場所でサボろうとその場から背を向けた。たまにはバズーカじゃなくて鞭もいいかもな。
「ん…」
ぽかぽかと暖かい日差しが当たる場所を見つけて、愛用のアイマスクと共に爆睡。うるせー土方の野郎は昨日俺が破壊した家々の請求書に追われて朝から部屋に篭りっきりだ。いい気味でィ。
意識を浮上させると肩の重みに気づく。アイマスクを上げて横を見れば、いつの間にいたのか、なまえがお揃いのアイマスクをして寝ていた。
近くに鞭が転がっていて、この昼下がりの雰囲気になんともミスマッチだった。
すうすうと寝息が聞こえる。蒼いアイマスクでパッチンしてやろうと思ったが、一向に目を覚まさない様子に俺も瞼が重くなってきた。
「もう一眠りするか」
そっと目を閉じながら、横に無造作にあったなまえの手を握った。
どれだけ強くなろうが、隊長として1つの隊を率いていようが、お前は俺の妹であることに変わりはねェ。
だからなまえ、俺はまだお前の手を引いて、歩いてもいいよな?
音にしなかったそれに答えるかのように、握った手がそっと握り返された。