沖田双子妹

□誰であろうと笑顔であれ
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帰ってきたその日は幕府への提出書類に追われた。真選組のものじゃなくて、あたしたちの書類。

隣で同じくペンを持つトシ兄は、あたしをチラリと見ただけで何も言わなかった。

カリカリとペンを走らせる音が響く。書類に没頭していた意識をふっと浮上させたら、部屋がいつも以上に煙たくなっていた。煙草の煙や臭いには慣れっこだけど、好きな訳じゃない。すぐに窓を開けたけど、灰皿が何度も山盛りになるくらいスパスパ吸うもんだから空気は直らなかった。



そして今日、幕府直々に通達が来て、いさ兄と一緒に城へ上がった。





「よく来たな」


頭を下げているから姿は見えないけど、この国を実質動かしている天導衆の1人だろう。その人の指示で顔を上げれば、ほら、予想通り。薄い布で仕切られた向こう側には、天導衆独自の服を着た人がいた。

上座にはその人、向かって左にはとっつぁん、そして下座にはいさ兄と、その斜め後ろにあたし。


「近藤よ、先日の討ち入りは良い働きであった。御上もお喜びであったぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「故に、これからもこの国のゴミ共の排除に勤めよ。良いな」

「…畏まりました」


有無を言わさない声音。いさ兄は言葉数少なく、再び頭を下げた。


「して、なまえ」


早々にいさ兄との話を終えて、天導衆はあたしへと視線を移した。

一拍置いて、はいと返事をする。


「任務ご苦労であった。報告書は見たが、お前の口から意見を聞きたい」


すると斜め前から心配そうな視線を送られる。眉を下げたいさ兄にだけ分かるように笑って、すぐに目線を上座へ向ける。


スッと息を吸った。


「今回の任務、全て江戸市街地ではなく江戸郊外や江戸以外の地域で討伐を行いました。どのえいりあんもいずれは巨大化するものばかりでしたので、成長後も考え攘夷志士は江戸の外でえいりあんを飼っている可能性が高いかと」


あたしたちの考えを淡々と言えば、天導衆はふむと頷いた。


えいりあんは大中小色も形も特性も様々だけど、今回の任務に共通していたことは全てが完成体時に巨大化すること。大きければそれだけ核を狙うのも大変になるから倒しづらい。


けど大きさが全てじゃないのも事実。


そんなことをつらつら考えること、数秒。天導衆が口を開いた。


「相分かった。何かあったらこちらからも知らせる。今後も期待しておるぞ―――零番隊=v

「はい。全力を尽くします」


零番隊
その言葉がさらに空気を重くした。


あたしの返事と共に、上座から姿が消える。ちらりといさ兄を見れば、それはそれは苦い顔をしている。


この人がそんな顔をする必要なんて、これっぽっちもないのに。



「いさ兄、帰ろう」

「…おう」


とっつぁんに一言断ってから、あたしたちは心持ち早足で部屋を後にした。





 
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