沖田双子夢 2

□俺、何かした?
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「これ可愛くない?」

「あ、可愛い。髪留め?」

「そうなの。でも高いなあ」

「今なまえちゃんがつけてる手袋と同じブランドだよね、これ。(小さい小物でもこの値段ってことは…沖田隊長すげーな)」


とあるブランド店で恋人のように身を寄せあって1つの商品を見るのは、私服姿のなまえと山崎だった。仕事時ではないため栗色の髪を背に流し、なまえが動くたびにさらさら揺れていた。


「えへへ、うん!」

「じゃあ俺クリスマスに何もあげれなかったから、この髪留めプレゼントさせて?」

「え、いいよ!!!それに退任務だったじゃん」

「俺があげたいんだから遠慮しないの」

「う…」


言葉が詰まったなまえににこりと笑い、山崎は髪留めを手に持ちレジへと向かった。その背を見つめ、退のくせにとなまえはぼやいた。




「はい。遅くなったけどプレゼント」

「わあい!ありがとう!」

「(おおお…可愛い)」

「地味だ地味だと思ってたけど今日の退、新八よりも地味じゃないよ!」

「あれ、満面の笑みで辛辣な言葉が」

「ふふ、大事にするね。さ、次行こう!」


腕を引かれた山崎は何とも言えない気持ちのまま、笑顔のなまえについていった。

2人が向かった先は化粧品売り場。山崎の任務の際女装をすることがあり、化粧もばっちりする。その化粧品の残りが少なくなってきたので買いに来たのだが、1人で来ると新宿○丁目の住人として見られるので、山崎は毎回なまえに頼み一緒に来てもらっていた。

今日2人が一緒に買い物に来ているのもそういう理由だった。


「何が足りなかったんだっけ?」

「マスカラとアイラインとチークと…あ、化粧水も」

「マスカラか。つけまにはしないの?」

「つけまつげってやったことないんだよね。糊で付けるとか痒くなりそうだし」

「でも楽だよ?任務帰りにマスカラ落とすのめんどくさいでしょ」

「ものすごく。じゃあつけまつげも買ってこうかな」

「そうしなー。んで帰ったら付け方教えてあげる」

「よろしく!」


買い物かごにがっさがっさと化粧品を入れた山崎は、ちょっと待っててねとまたレジへ向かった。少し混んでいたのが見えたので、時間潰しのためになまえはふらりと歩き出す。

右を見ればなまえの年代が好みそうな服屋や雑貨屋、左を見れば子供服やメンズ服の店が並ぶ。休日なので、店の中には髪を綺麗に結い上げ簪をさし、刀を握ったことのない滑らかな手が可愛らしい着物を手に取った同世代の女の子が多くいる。
自分の格好を何気なしに見れば、見た目は彼女たちと同じ。ただ明らかな違いは、豆のできた手や傷だらけの体。

もう一度着飾った女の子を見て、笑みを浮かべたままその店を通り過ぎた。


「あ、あれかっこいい」


入った店は男物の着物が並んでいて、なまえのような若い女の子は1人もいなかった。しかし気にせず目についた着流しの前に堂々と立つ。

じろじろと表、裏地、質感などを見て、最後に値段を確認。これが銀時なら真っ先に値段を見るだろうが、そこは幕府の機関である真選組の一人。未成年だがちゃんと稼いでいるので、多少高くても質がよければ買う財力は持っていた。


「すいません、これください」






「なまえちゃんお待たせ!」


レジの出口に立っていたなまえへ山崎がすまなそうに来る。いいよーと返すなまえの手にショップバックが握られているのを見て、何か買ったの?と聞いた。


「着流しをね」

「でもそれ男物の店だけど」

「これは…」


チラリと自分を見たなまえに、山崎はまさか…!と胸が高鳴る。


「(まさかなまえちゃん、俺のために)え、えっと」

「これ総悟に似合うかなあって思って買ったんだ」

「……デスヨネー」

「?、何落ち込んでんの?」

「何でもないよ、ははは…」

「変な退。あ、いつもか」


甘い想像は瞬時に打ち砕かれ、肩を落とした山崎をなまえは不思議そうな顔で見るのだった。


その日の夜、


「オーイ山崎ィ」

「はい、何です、っぐえ」


沖田に呼ばれたため返事をした山崎は、振り向いてすぐ顔が畳にめり込んだ。確認するまでもなく沖田が踏んづけたのだ。


「お前なまえに髪留めあげたらしーじゃねぇか」

「は、はい…クリスマスプレゼントの代わりに」

「そのせいで近藤さんが自分があげたやつ付けてくれないっつって、ヤケ酒してんでさァ」

「ええええ、そんだけの理由で?」

「んでなまえ離さねーし、離そうとしたら近藤さん泣くし、こっちとしちゃさっさと寝てーのになまえは苦笑いしながらもゴリラに捕まってるし、なまえとマリカーするはずだったのにできなかったし、今日も土方ウゼーし」

「最後らへん俺関係な、ぷげらっ」

「優しい俺はこれで許してやるけど、まあ頑張れや」


力の限り踏みつけていた足を退かし、ふああと欠伸をしながら沖田は来た道を戻っていった。行き先は恐らくなまえと近藤がいる居間だろうが、それを確認する気力は顔を畳にめり込ませた山崎にはなかった。


「ってか今沖田隊長、頑張れって」


…ま、まさか…!

本日2度目のまさか!も当たってほしくなかったが、


「山崎ィィィ!どこ行きやがった!テメーのせいで近藤さんが今日提出の書類やんなくて仕事が終わんねーんだよォォォ!!!」

「当たったァァァ!」

「そっちかァァ!逃げんじゃねーぞコラァァ!!!」

「ヒィィィ!俺悪いことしてないのにィィ!!」


次の日上半身を庭に埋めた山崎を、早番の隊士が慌てて掘り出したらしい。





 

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