沖田双子夢 2
□運が良いのか悪いのか
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ザザザザッ
ドコッ バキッ
ドスン!
「ぐっ」
「ぎゃっ」
思ったより長かった急坂は、意識が遠退く寸前で終わりを迎えた。雪が積もった地面の上に放り出されたあたしは、暫く動けず地面に横たわったまま。いくらえいりあんと戦ってるからって、防具なしに転がり落ちた後瞬時に立てるほどあたしはスーパーサイヤ人ではない。
うううと唸っていると、隣で同じように倒れていた総悟が声をかけてきた。
「…大丈夫かィ」
「…それほどでも」
「…褒めてない…つかこんな時にボケんの止めろ」
「…ごめん」
ぐだぐだした会話の後、ごろんと体を仰向けにする。視界いっぱいに、冬でも枯れない葉と真っ青な空が見えた。
ってか体痛い、折れてはなさそうだけどでも痛い。大きく息を吸ったら頬がピリッとした。手を当てると枝で切れたのか少し血が出てた。
無言のまま上を見上げること数分。背中が冷たくなってゆっくり体を起こすと、総悟も同じように起き上がった。
「歩くか」
「うん」
急坂を登れるわけはなく、あたしたちはどこかゲレンデに出る道はないかと歩き出すことにした。
「なかなか出ないねえ」
「進む道逆だったかねえ」
坂を左側にしてずっと歩いてきたけど一向にゲレンデが見えない。総悟の言う通りに右だったかなあ。っても戻るには時間が経ってて、日暮れではないけど太陽は傾いてきている。
寒さと痛みで体はあまり動かなくなってる。ゆっくり歩くあたしに、自分も痛いはずなのに総悟が肩を貸して支えてくれた。
カアとカラスが鳴いて「カラスって食べれるかな…」「…食べれるんじゃね?」とガラスのハートにヒビが入り始めた頃、満身創痍なあたしたちに追い打ちをかけるものが現れた。
「…ふぁっといずでぃす」
「…いっつべあー」
「…わお。そーびっく」
こんな時でもボケれるあたしたちは、もう正常な思考が保てなくなってるのかも。
何故か英語で始まった会話の通り、目の前には冬眠しているはずの熊。ベアー。
…まだ萌ゆる春じゃないから極寒の冬だから!
冷や汗が米神を伝ったけど、空気どころか季節を読めてない熊がこっちに気付いてないのがまだ救いだった。
どうしようかと総悟を見れば総悟もあたしを見ていて、同時にゆっくり下がる。一歩二歩と熊から後退し、この木を曲がれば熊から見えなくなるという場所で足元にあった枝がパキリと折れた。
「……嘘ォ」
「ガルルルル!」
音に気づいた熊は振り返り、唸り声をあげてあたしたちを見た。
「グオオオオ!!」
「「ぎゃあああああ!」」
叫び声をあげて、襲いかかってきた熊に背を向け走り出した。だけど火事場の馬鹿力で猛ダッシュできた体も坂から落ちた痛みでだんだん動かなくなる。すぐ後ろには血走った目をした熊。このままじゃ捕まっちゃうし何よりもう痛くて走れない。
顔を顰めてそれでも前を見ると、離れた位置に根元から折れた太い枝が落ちていた。
ウオオオオ!と熊が一際大きい声を上げて、ぐんと勢いを増して迫ってきた。これが最後のチャンスだと頑張って走って落ちていた枝を掴み取り、猛進してくる熊と対峙する。
その時総悟もこの枝を掴んでいたことに気付いて、目は熊から離さなかったけど次の行動を勘だけで共有する。
「熊なら冬は大人しく寝てなさい!」
ザッと鋭い爪を向けてきた熊を飛び上がったことで避け、あたしの声を合図に熊の眉間に力の限り枝を叩きこんだ。